
この記事の要点
- 人は、みだりに自分の容ぼうを撮影されたり、その写真を公表されたりしない利益を持つと最高裁は判断している(平成17年11月10日第一小法廷判決)。写真は、本人が了解した範囲で使う
- 顔が分かる写真や動画は、源氏名で載せていても個人情報になりうる。何に使うかを決めて本人に伝え、載せる場所・期間・辞めたあとの扱いを書面で残しておく
- 辞めた人を今も在籍しているように載せ続けると、個人情報保護法第35条第5項の利用停止等の請求が認められる例として、個人情報保護委員会のガイドラインに挙がっている。請求がなくても、使わなくなった個人データは遅滞なく消去するよう努める(第22条)
新しく入ったキャストの写真を撮って、店のInstagramとポータルサイトに載せる。求人ページにも「在籍キャスト」として並べる。どれも集客と採用のために、多くの店が当たり前にやっていることです。
困るのは辞めたあとです。「前の店のサイトに、まだ自分の写真がある」と本人から連絡が来て、どこに何を載せたか誰も把握していない。撮るときに何も取り決めていなければ、消すのか残すのかで揉めます。キャストやスタッフの写真と動画について、撮る前の同意から辞めたあとの削除までを、判決・条文・行政の資料で順に確認します。
顔が分かる写真は、源氏名を使っていても個人情報になる
個人情報保護法第2条第1項は、個人情報を「特定の個人を識別することができるもの」と定めています。文字だけでなく、図画や電磁的記録に記録された事項も含まれます。
個人情報保護委員会のガイドラインは、個人情報にあたる例として「本人が判別できる映像情報」を挙げています。ホームページやSNSで公にされている、特定の個人を識別できる情報も例に入っています。
源氏名で載せていても、顔が分かる写真なら本人を識別できます。本名を出していないから個人情報ではない、とは考えないでください。顔を写さず手元や後ろ姿だけにする、スタンプで顔を隠すといった撮り方は、この点で本人の負担を軽くする方法です。
写真の撮影や広告での利用には、肖像権やパブリシティ権が関わる
写真を撮ること、載せることには、個人情報保護法とは別に、人格的利益(いわゆる肖像権)の問題があります。法律の条文ではなく、最高裁の判決で示された考え方です。
また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。
最高裁判所第一小法廷 平成17年11月10日判決(平成15(受)281)
同じ判決は、承諾のない撮影が不法行為として違法になるかを、撮影の場所・目的・態様・必要性などを総合して判断するとしています。店がキャストを撮るときも、本人の承諾を得ることが出発点になります。そのうえで、承諾した範囲を超えて使わないことが大切です。
平成24年2月2日の最高裁判決は、肖像などが持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利を「パブリシティ権」と呼びました。無断での使用が違法になる類型の一つに、肖像等を商品等の広告として使用することを挙げています。店の広告にキャストの写真を使うのは、形のうえではこの類型に近い使い方です。
写真を載せる同意は、載せる場所や退店後の扱いまで書面に残す
個人情報保護法は、個人情報を扱う事業者に、利用目的をできる限り特定するよう求めています(第17条第1項)。取得したら、あらかじめ公表している場合を除き、速やかに利用目的を本人に通知するか公表しなければなりません(第21条第1項)。特定した目的の範囲を超えて使うには、あらかじめ本人の同意が要ります(第18条第1項)。
法律は、写真の同意を書面で取ることまでは求めていません。それでも書面に残すのは、辞めたあとに「どこまで了解していたか」を双方で確かめられるようにするためです。次の項目を1枚にまとめておくと、あとで迷いません。
| 書いておく項目 | 例 |
|---|---|
| 載せる場所 | 店のInstagram、ホームページ、求人ページ、ポータルサイト(サイト名) |
| 写し方 | 顔あり、目元を隠す、手元・後ろ姿のみ、などから本人が選ぶ |
| 表示する名前 | 源氏名のみ。本名・年齢・出身地は載せない |
| 動画の扱い | 撮るか、どこに載せるか、音声を入れるか |
| 辞めたあとの扱い | 退店後いつまでに、どこから消すか。店が自分で消せない場所の扱い |
| 途中でやめたいとき | 誰に、どう伝えれば取り下げるか |
ポータルサイトのように運営会社が別にある媒体に写真を渡す場合、写真が個人データにあたれば、本人の同意なく第三者に提供してはならないという第27条第1項の決まりも関わります。媒体ごとに本人の了解を取っておけば、この点も整理できます。
写真と営業成績を組み合わせた広告には、風営法の規制がかかる
写真そのものより、写真に何を添えるかで問題になるのが風営法の広告規制です。規制の条文は店の種類で違います。
| 店の種類 | 広告についての主な条文 |
|---|---|
| 接待をする風俗営業の店(キャバクラ、ラウンジなど) | 第16条。営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない |
| 深夜に酒類を出す飲食店(届出のバー、ガールズバーなど) | 第32条第2項・第3項が準用するのは第14条・第15条と第22条第1項の一部。第16条は準用されていない |
接待をする店で気をつけたいのは、キャストの写真と成績を組み合わせる表示です。警察庁の解釈運用基準は、第16条の規制対象に、次のような広告・宣伝が含まれるとしています。
また、客が接待により作出された歓楽的雰囲気の影響下にあることに乗じて遊興又は飲食をさせ、不当な不利益を生じさせることを防止するという法第18条の3の趣旨に鑑みると、接客従業者の指名数、売上額等の営業成績や役職を殊更に強調するなど著しく客の遊興若しくは飲食をする意欲をそそり、又は接客従業者間に過度な競争意識を生じさせ、営業に関する違法行為を助長するような歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出すものも規制の対象となる。
警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」(令和8年7月1日)第17の5(2)イ
令和7年6月4日の警察庁の通達は、広告物に接客従業者の容姿と共に営業成績を示す表示などを問題にし、「指名数No.1」「総支配人」などを例に挙げています。写真の横に何を書けるかは、「No.1」が使えなくなった店の広告で整理しました。深夜酒類提供の店でも、広告の出し方に迷うものは管轄の警察署に確認してください。
求人や外部の媒体に載せる前に、年齢確認と掲載内容を点検する
18歳未満の人は、写真に出すかどうかを考える前に、そもそも接待をさせてはいけません(風営法第22条第1項第3号)。接待飲食等営業の店などは、客に接する業務につかせようとする人の生年月日を書類で確認し、記録を残す義務があります(同法第36条の2)。撮影は、この確認を終えてからにします。確認の手順は18歳未満と年齢確認にまとめました。
求人に写真を使うときは、職業安定法第5条の4も関わります。労働者を募集する店は、広告等で募集に関する情報を出すとき、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。辞めた人の写真を「いま働いている人」として求人に残すのは、この決まりに照らして見直す対象です。応募者から集める情報の扱いは、面接で聞いてはいけないことで扱いました。
Googleビジネスプロフィールに載せる写真も同じです。水商売のMEO入門で書いたとおり、客やスタッフの顔が意図せず写っていないかを公開前に確かめます。口コミへの返信で、特定のキャストの名前を出すかどうかも、同じ考え方で決めておくと迷いません。返信の書き方はGoogleの口コミ、低評価にどう返すかを参照してください。
辞めたキャストから「写真を消して」と言われたら、どう対応するか
個人情報保護法第35条は、本人が事業者に対して、保有個人データの利用停止や消去を請求できる場合を定めています。違反して扱われている場合(第1項)のほか、次の第5項があります。
本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データを当該個人情報取扱事業者が利用する必要がなくなった場合、当該本人が識別される保有個人データに係る第二十六条第一項本文に規定する事態が生じた場合その他当該本人が識別される保有個人データの取扱いにより当該本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合には、当該保有個人データの利用停止等又は第三者への提供の停止を請求することができる。
個人情報の保護に関する法律 第35条第5項
個人情報保護委員会のガイドラインは、請求が認められると考えられる例として、退職した従業員の情報を現在も自社の従業員であるようにホームページ等に掲載している場合を挙げています。請求に理由があれば、事業者は遅滞なく利用停止等をしなければならず(第35条第6項)、対応の結果は本人に遅滞なく通知します(同条第7項)。
請求の対象は「保有個人データ」です。写真が名前ごとに整理され、検索できる形で管理されているかなど、管理の仕方でこれにあたるかが変わります。ただ、請求を待つ必要はありません。第22条は、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めることを求めています。辞めた日を起点に、写真を載せた場所を一覧にして順に消していく手順を、店の側で先に決めておくのがいちばん揉めません。
ポータルサイトや求人媒体のように店が直接消せない場所は、運営会社に削除を依頼し、依頼した日と消えた日を記録しておきます。なお、2026年7月に公布された改正法(令和8年法律第56号)で第35条には項が加わりますが、第5項の文言は変わりません。第35条にかかわる部分は、公布の日から2年を超えない範囲で政令が定める日に施行されます。
撮影の強要とハラスメント、撮影にかかる時間の扱い
顔出しを断ったキャストを、シフトや待遇で不利に扱う。本人が嫌がる衣装や構図での撮影を、立場を使って求める。こうしたことは、同意の問題である前に、店の中のハラスメントの問題にもなりえます。店が講じなければならない措置はハラスメント対策の記事で扱いました。同意書に「途中でやめたいときの伝え方」を入れておくのは、断りやすくするためでもあります。
雇用契約で働く人に、店の指示で撮影をさせる場合は、その時間の扱いも決めておきます。厚生労働省のガイドラインは、労働時間を使用者の指揮命令下に置かれている時間とし、使用者の明示または黙示の指示で業務に従事する時間は労働時間にあたるとしています。開店前に撮影のために早く来てもらうなら、その分も勤怠に入ります。業務委託のキャストの場合、これに当てはまるかは契約の中身と働き方の実態で変わるので、社会保険労務士に確認してください。
今日できる確認
- 店のSNS、ホームページ、求人ページ、ポータルサイト、Googleビジネスプロフィールに載っている写真を一覧にし、辞めた人が残っていないか
- 載っている全員について、どこに載せるかの了解を書面で取っているか
- 写真の横に、順位・売上・役職など成績を示す言葉を添えていないか
- 撮影の前に、生年月日を書類で確認しているか
- 退店した人の写真を、いつまでに、誰が、どこから消すかを決めているか
出典
- 最高裁判所第一小法廷 平成17年11月10日判決(平成15(受)281)(裁判所ウェブサイト 裁判例情報。みだりに容ぼう等を撮影されない人格的利益と、承諾のない撮影が違法となるかの判断の仕方、撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益)
- 最高裁判所第一小法廷 平成24年2月2日判決(平成21(受)2056)(裁判所ウェブサイト 裁判例情報。パブリシティ権の意味と、無断使用が不法行為法上違法となる3つの類型)
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索。第2条が個人情報の定義、第16条が個人情報データベース等・保有個人データの定義、第17条・第18条・第21条が利用目的、第22条が不要になった個人データの消去、第27条が第三者提供、第35条が利用停止等の請求。令和8年法律第56号による改正後の版も確認)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(個人情報にあたる例としての本人が判別できる映像情報、第35条第5項の請求が認められると考えられる例としての退職した従業員の掲載)
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索。第16条が風俗営業の広告及び宣伝、第22条第1項第3号が18歳未満の接待の禁止、第32条が深夜の飲食店営業への準用、第36条の2が接客従業者の生年月日等の確認)
- 警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」(令和8年7月1日・PDF。第17の5が第16条の広告及び宣伝の規制の対象)
- 警察庁「接待飲食営業における広告及び宣伝の取扱いについて(通達)」(令和7年6月4日付け丁保発第104号・PDF。接客従業者の容姿と共に営業成績を示す表示などの類型と例)
- 職業安定法(e-Gov法令検索。第5条の4が募集情報等の的確な表示)
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(PDF。労働時間は使用者の指揮命令下に置かれている時間であること)
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法相談ダイヤル」(電話番号03-6457-9849、受付時間9〜17。土日祝日と年末年始を除く)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店の写真の管理が個人情報保護法の対象にあたるかは個人情報保護委員会の相談ダイヤルへ、広告の表現は管轄の警察署へ、本人との争いになりそうなときは弁護士へ確認してください。





