
この記事の要点
- 顔が分かる録画は個人情報にあたる。防犯目的が明らかなカメラなら利用目的の通知・公表は不要とされるが、個人情報保護委員会のQ&Aは、作動中であることを入口やカメラの近くに掲示する措置を挙げている
- 警察の捜査関係事項照会(刑事訴訟法第197条第2項)への回答は「法令に基づく場合」にあたり、客の同意なく提供できる。求めた捜査官の役職と氏名を確かめ、提供したことを後から説明できるようにしておく
- 業務で使うスマホの電話帳も個人情報データベース等にあたりうる。店の従業者やその経験者が名簿を不正な利益のために持ち出せば罰則があり、2027年1月17日から法定刑が重くなる
会計で揉めた客が「そんな注文はしていない」と言い張る。店は録画を見返して、卓の様子を確かめます。迷惑な客が来た夜は、その顔をスタッフのあいだで共有しておきたくなります。水商売の店にとって、防犯カメラは身を守る道具です。
ただ、顔が分かる映像は個人情報です。客の名簿や、キャストのスマホに入っている客のLINEの連絡先も、同じ個人情報保護法の対象になります。この記事では、カメラの付け方と録画の扱い、警察や客から映像を求められたときの対応、名簿と連絡先の管理を、法律と個人情報保護委員会のQ&Aで確認します。
客やキャストの顔が映る防犯カメラの映像は、個人情報にあたる
個人情報保護法第2条第1項は、生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるものを「個人情報」と定めています。個人情報保護委員会(以下、委員会)のQ&Aは、カメラで特定の個人を識別できる画像を取得すれば、個人情報を取り扱うことになるとしています。店のカメラが客やキャストの顔を映していれば、その録画は個人情報です。
個人情報を扱う事業者は、利用目的をできる限り特定しなければなりません(第17条第1項)。取得したら、利用目的を本人に通知するか公表します(第21条第1項)。ただし「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」は、この通知・公表が要りません(第21条第4項第4号)。
委員会のQ&Aは、カメラの設置状況などから防犯目的であることが明らかなら、この例外にあたり、通知・公表は不要と考えられるとしています。逆に言えば、録画を防犯以外に使うなら話が変わります。Q&Aは、防犯目的で撮った画像をマーケティングなどに使うには、あらかじめ本人の同意が要るとしています(第18条第1項)。客層の分析や宣伝に録画を使うつもりなら、撮る前に目的を決めて示すことになります。
顔を自動で見分ける機能の付いたカメラは、扱いが別です。Q&Aは、外観から顔識別機能を使っていると分かりにくいため、防犯目的が明らかな場合の例外にあたらず、利用目的の通知・公表が必要だとしています。2026年7月17日に公布された改正法では、顔などの身体の特徴から作るデータのうち政令で定めるものについて、扱うことや利用目的などを、あらかじめ本人に通知するか本人が容易に知り得る状態に置く決まりが加わります。施行は公布から2年を超えない範囲で政令で定める日です。
「防犯カメラ作動中」の掲示は、店の入口とカメラの近くに出す
事業者は、偽りその他不正の手段で個人情報を取得してはいけません(第20条第1項)。委員会のQ&Aは、撮られていることを本人が容易に分からない置き方なら、分かるようにする措置が必要だとしています。そのうえで、次の例を挙げています。
例えば、防犯カメラが作動中であることを店舗や駅・空港等の入口や、カメラの設置場所等に掲示する等の措置を講じることが考えられます。
個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」A1-13
Q&Aは、外見でカメラと分かる場合でも、掲示で分かりやすくすることが望ましいとしています。入口のドアと、カメラの真下あたりに「防犯カメラ作動中」を貼っておけば足ります。防犯のほかに店内のトラブル対応にも録画を使うなら、その目的も掲示に書いておくと、第21条の通知・公表を兼ねられます。
| 場面 | 法律とQ&Aの整理 | 店でやること |
|---|---|---|
| 入口や店内のカメラで録画する | 個人情報にあたる。防犯目的が明らかなら通知・公表は不要(第21条第4項第4号) | 作動中であることを入口とカメラの近くに掲示する |
| 録画を防犯以外に使う | 防犯目的で撮った画像を商業目的に使うには本人の同意が要る(第18条第1項) | 使う目的を撮る前に決めて示す。決めていない使い方をしない |
| 顔識別機能付きのカメラを入れる | 防犯目的が明らかな場合の例外にあたらず、利用目的の通知・公表が要る | 機能を使っていることと目的を掲示や店のサイトで示す |
| 警察から照会が来る | 捜査関係事項照会への回答は「法令に基づく場合」(第27条第1項第1号) | 捜査官の役職と氏名を確かめ、提供した記録を残す |
録画を見られる人を限り、保存期間のルールを決めておく
録画を誰でも見られる状態にしていると、スタッフのスマホで撮られて外に出ることがあります。委員会のQ&Aは、カメラ画像の安全管理の例として、画像を扱うシステムを使える従業者を限る、店の中の責任者を決める、ネットワークカメラならパスワードなどでアクセスを制御する、といった措置を挙げています(第23条)。
保存期間について、Q&Aは、利用の必要性を考えて保存期間を決め、必要がなくなったら遅滞なく消すよう努めるとしています(第22条)。日数の決まりは法律にはありません。自治体のガイドラインが目安を置いている例として、横浜市のガイドラインは、事業者の保存期間を「おおむね1箇月以内」で決めるものとしています。
横浜市のガイドラインは、管理責任者を決めること、撮影する範囲を必要なところに限ること、関係者以外が見通せない場所で録画装置を管理すること、画像を外に提供したら日時や提供先を記録することも挙げています。自治体によっては条例を置いているところもあります。たとえば杉並区の条例は、商店会が商店街に設置する場合や店舗面積3,000平方メートルを超える商業施設などに、設置と利用の基準の届出を求めています。店のある自治体の決まりは、自治体のサイトで確認してください。
| 決めておくこと | 例 |
|---|---|
| 管理の責任者 | 店長など1人を決める |
| 録画を見られる人 | 責任者と、責任者が決めたスタッフに限る |
| 保存期間 | 録画装置の上書きの設定と合わせて日数を決める |
| 持ち出しと複写 | スマホでの撮影やデータのコピーを禁止する |
| 外への提供 | 提供した日時、相手、内容、理由を記録する |
会計トラブルや迷惑行為があった日の録画は、上書きされる前に該当部分を分けて保存しておきます。トラブルのときに店がしてはいけないことは会計トラブルで店がしてはいけないことに、迷惑な客への店の決めごとは客からのセクハラやつきまといからキャストを守る店の決めごとにまとめています。
警察から防犯カメラの映像の提出を求められたときの確認手順
警察は、捜査のために「公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」とされています(刑事訴訟法第197条第2項)。捜査関係事項照会と呼ばれるものです。
個人情報保護法は、「法令に基づく場合」には本人の同意なく個人データを第三者に提供できるとしています(第27条第1項第1号)。利用目的の範囲を超える取扱いの制限にも、同じ例外があります(第18条第3項第1号)。委員会のQ&Aは、捜査関係事項照会への回答はこの「法令に基づく場合」にあたり、一般に回答すべきと考えられるとしたうえで、次のように書いています。
ただし、本人との間の争いを防止するために、照会に応じ警察等に対し顧客情報を提供する場合には、当該情報提供を求めた捜査官等の役職、氏名を確認するとともに、その求めに応じ提供したことを後日説明できるようにしておくことが必要と考えられます。
個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」A7-17
店としては、照会の根拠と、求めてきた捜査官の所属・役職・氏名を控えます。渡した映像の日時の範囲と、渡した日も記録します。裁判官の令状による差押え(刑事訴訟法第218条第1項)は、照会とは別の手続です。どちらか分からないときは、その場で警察官に確かめてください。風営法の立入で見られるものは、警察の立入で何を見られるのかにまとめています。
客から「自分の映像を見せて」「消して」と言われたら、店に応じる義務はあるか
個人情報保護法には、本人が事業者に開示を請求できる決まりがあります(第33条第1項)。利用の必要がなくなったデータなどの消去を求める決まりもあります(第35条第5項)。ただ、どちらも対象は「保有個人データ」で、個人情報データベース等を構成する個人データのうち、事業者が開示や消去の権限を持つものです(第16条第3項・第4項)。
録画がこれにあたるかについて、委員会のQ&Aは次のように書いています。
すなわち、記録した日時について検索することは可能であっても、特定の個人に係る映像情報について検索することができない場合には、個人情報データベース等には該当しないと解されます。
個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」A1-41
日時で巻き戻すだけの一般的な録画装置なら、この法律の開示請求の対象にはならないということです。一方、迷惑な客の映像を名前ごとにフォルダに分けて保存しているなど、人で探せる形にしている場合は、保有個人データにあたりえます。その場合でも、開示で本人や第三者の権利利益を害するおそれがあるときは、全部または一部を開示しないことができます(第33条第2項第1号)。同じ映像にはほかの客やキャストも映っています。
対象にならない場合でも、断って終わりにはしません。事業者は、個人情報の取扱いに関する苦情を適切かつ迅速に処理するよう努めなければなりません(第40条第1項)。映像の保存期間と、期間が過ぎたら消えることを説明するのが基本です。判断に迷ったら、個人情報保護委員会の相談ダイヤルか弁護士に相談してください。
盗難対策でも、更衣室や控室にはカメラを置かない
キャストやスタッフが着替える場所にカメラを置くのは、盗難対策のつもりでもやめてください。正当な理由なく、ひそかに人の下着姿などを撮影する行為は、性的姿態等撮影罪として3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(性的姿態撮影等処罰法第2条第1項第1号)。着替えの場を撮る録画は、この罪にあたるおそれがあります。
控室のように着替えない場所でも、働く人を撮るなら目的を先に決めます。委員会のQ&Aは、従業者をビデオで監視(モニタリング)する場合の留意点として、目的をあらかじめ特定して社内規程などに定め従業者に明示すること、責任者と権限を決めること、ルールを定めて運用する人に徹底することなどを挙げています。横浜市のガイドラインも、撮影する範囲を必要なところに限るよう求めています。貴重品はロッカーで守り、カメラは店の入口やレジ、客席など防犯に必要な場所に限るのが筋です。
紙の顧客名簿や、キャストが業務で使うLINEも、店が管理する個人情報になりうる
個人情報を検索できるように体系的にまとめたものを「個人情報データベース等」といい、それを事業に使う人が「個人情報取扱事業者」です(第16条第1項・第2項)。紙の顧客カードを整理したファイルも、エクセルの名簿もこれにあたりえます。来店カードやアンケートで客に直接書いてもらうときは、あらかじめ利用目的を本人に明示します(第21条第2項)。
スマホの連絡先も例外ではありません。委員会のQ&Aは、従業者が業務で使う携帯電話の電話帳に氏名と電話番号が登録されていれば、個人情報データベース等にあたると解されるとしています。従業者本人しか使わないアドレス帳でも、店の業務に使っているなら店の個人情報データベース等にあたりうる、ともしています。キャストが自分のスマホで客とやり取りしている場合も、店の仕事に使っている連絡先なら店の管理の話になります。
事業者は、個人データの漏えいなどを防ぐ措置を講じ(第23条)、扱う従業者を監督しなければなりません(第24条)。Q&Aは、この「従業者」を、事業者の指揮監督を受けて業務に従事する人とし、雇用契約の有無を問わないとしています。業務委託のキャストでも、店の指揮監督を受けて客の情報を扱っていれば対象になりえます。客の連絡先は店の端末や店のLINE公式アカウントにまとめ、入店時に扱いのルールを渡しておくと管理しやすくなります。集めた連絡先に営業のメールやSMSを送るときの決まりは、客に送る営業のメールやSMSにまとめています。
辞めたキャストが客の連絡先を持ち出したときの罰則と、事前の備え
個人情報保護法第179条は、個人情報取扱事業者の従業者や、従業者だった人が、業務で扱った個人情報データベース等を、自分や第三者の不正な利益を図る目的で提供したり盗用したりした場合の罰則を定めています。いまの法定刑は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
この規定は改正され、2027年1月17日から第178条になります。本人などに損害を加える目的の場合も加わり、法定刑は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に上がります。
実際の持ち出しがこの罰則にあたるかは、名簿が店の個人情報データベース等といえるか、どう使われたかで変わります。辞めたキャストへの請求や、客の情報を営業秘密として守れるか(不正競争防止法)は、弁護士に相談してください。店にできるのは、辞める前の管理です。店の名簿へのアクセスを退店日に止め、店の端末を返してもらう手順を決めておきます。
今日できる確認
- 入口とカメラの近くに「防犯カメラ作動中」の掲示があるか。防犯以外に使うなら、その目的も示しているか
- 録画を見られる人と保存期間を決め、スマホでの撮影や持ち出しを禁止しているか
- 警察に映像を渡したとき、捜査官の所属・役職・氏名と、渡した範囲を記録する用紙があるか
- 控室・更衣室にカメラを置いていないか
- 客の連絡先が、店の端末や店のアカウントで管理されているか。退店時にアクセスを止める手順があるか
出典
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索。第2条が個人情報の定義、第16条が個人情報データベース等と保有個人データ、第17条・第18条・第21条が利用目的、第20条が適正な取得、第22条〜第24条が消去・安全管理・従業者の監督、第27条が第三者提供、第33条・第35条が開示と利用停止等、第40条が苦情処理、第179条が個人情報データベース等提供罪。令和8年法律第56号による改正の施行日もここで確認)
- 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」(PDF・令和7年7月1日更新。Q1-13〜1-15が防犯カメラと顔識別カメラ、Q1-37・1-38・1-41が個人情報データベース等、Q5-4が保有期間、Q5-5・5-7が従業者とモニタリング、Q7-17が捜査関係事項照会、Q10-8がカメラ画像の安全管理)
- 刑事訴訟法(e-Gov法令検索。第197条第2項が捜査関係事項照会、第218条第1項が令状による差押え)
- 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(e-Gov法令検索。第2条が性的姿態等撮影罪)
- 横浜市「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドラインの解説」(PDF。管理責任者、撮影区域、表示、保存期間、外部への提供)
- 杉並区「防犯カメラの設置及び運用に関する基準の届出について」(条例に基づく届出が必要な設置者)
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法相談ダイヤル」(電話03-6457-9849、平日9時30分〜17時30分)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店のカメラの置き方や録画の扱い、客からの開示や消去の求めへの対応は個人情報保護委員会の相談ダイヤル(03-6457-9849)へ、辞めたキャストへの対応や客とのトラブルは弁護士へ確認してください。






