
この記事の要点
- 商標権は特許庁の設定の登録で発生する(商標法第18条第1項)。会社の商号を登記しても、店名の商標権は生まれない。登録すると、指定した役務について登録商標を使う権利を専有し、似た名前の使用も侵害とみなされる
- 飲食物の提供は第43類で、バーにおける飲食物の提供も同じ類似群に入る。出願料は3,400円に1区分ごとに8,600円、登録料は一括で納めるなら1区分32,900円。出願の前に、J-PlatPatで登録済みの商標を無料で検索できる
- 他人の出願より前から使っていた名前は、出願の時点で広く知られていれば、先使用権で使い続けられる。店名を変えたら、風営法の許可や深夜酒類提供飲食店営業の届出は10日以内、保健所への変更届は東京都なら10日以内
新しい店の名前を決めた。看板を作り、SNSのアカウントを取り、求人にも載せた。ところが半年後、同じ名前の店が別の街にあると知る。あるいは、辞めた店長が近くで一字違いの店を開く。店の名前をめぐる困りごとは、たいてい名前を使いはじめたあとに起きます。
そのとき頼りになるのは、店の名前を商標として登録しているかどうかです。この記事では、商標法の仕組み、会社の商号との違い、出願の前の検索と費用、店名を変えたときの届出までを、条文と特許庁の資料で確認します。
店名の権利は、看板を出した日ではなく、特許庁の登録で生まれる
店の名前を独占して使える権利は、商標権です。商標法は、商品やサービス(役務)について使う文字・図形・記号などを「商標」と定めています(第2条第1項)。店の名前は、飲食物の提供という役務に使う文字なので、商標になりえます。
商標権は、設定の登録により発生する。
商標法 第18条第1項
看板を出した日でも、開店した日でもなく、特許庁で設定の登録を受けた日に権利が生まれます。 登録を受けた人は、指定した役務について、登録商標を使う権利を専有します(第25条)。権利の存続期間は設定の登録の日から10年で、更新の申請をすれば延ばせます(第19条)。
商標権者は、権利を侵害する人に、侵害の停止や予防を求められます(第36条)。登録商標と同じ名前だけでなく、似た名前を同じ役務や似た役務に使うことも、侵害とみなされます(第37条第1号)。
侵害には罰則もあります。商標権を侵害した人は10年以下の拘禁刑か1,000万円以下の罰金、またはその両方です(第78条)。似た名前の使用など、侵害とみなされる行為は5年以下の拘禁刑か500万円以下の罰金、またはその両方です(第78条の2)。法人の業務として行われれば、法人には3億円以下の罰金が科されます(第82条第1項第1号)。
会社の登記だけでは店名は守られない。商号と商標の違い
「会社を作って登記したから、名前は守られている」と考える人がいます。ただ、会社の名前と店の名前は別のものです。
会社法は、会社の名称を商号としています(第6条第1項)。株式会社なら、商号に「株式会社」の文字を入れます(同条第2項)。個人で営業する人は、自分の氏名などを商号にでき、商号を登記することもできます(商法第11条)。
商号には、商号の決まりがあります。不正の目的で、他の会社や他の商人と誤認されるおそれのある名称や商号を使ってはいけません(会社法第8条第1項、商法第12条第1項)。違反すると100万円以下の過料で、営業上の利益を侵害された側は使用の停止を求められます(会社法第8条第2項・第978条第3号、商法第12条第2項・第13条)。
どちらの規定も、不正の目的と誤認のおそれが前提です。店の名前を指定した役務で独占して使う権利は、商号の登記ではなく、商標の設定の登録で生まれます。会社の商号と店名が違うなら、守りたいのは店名のほうです。商標を考えるときは、店名で調べて店名で出願します。
お酒を出す店は第43類が基本。接待を伴う店は区分の確認が要る
商標の出願では、使う商品や役務を指定します。指定は、政令で決められた区分に従います(商標法第6条第1項・第2項)。商標法施行令の別表では、第43類が「飲食物の提供及び宿泊施設の提供」です。
特許庁の類似商品・役務審査基準(国際分類第13-2026版対応)を見ると、第43類の「飲食物の提供」には、「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」や「バーにおける飲食物の提供」が同じ類似群コード(42B01)で並んでいます。バーやスナックのように酒を出す店は、この区分が出発点になります。
一方で、同じ基準の第43類の注釈には、次の一文があります。
この類には、特に、次のサービスを含まない:(中略)例えば、全寮制学校、保育所、スポーツキャンプ、ディスコ及びナイトクラブにより提供される、宿泊又は飲食物の提供が付随しうるものを含む、知識又は技芸の教授及び娯楽の提供(第41類);(後略)
特許庁「類似商品・役務審査基準〔国際分類第13-2026版対応〕」第43類
接待にあたるサービスは、第43類の基準には載っていません。キャバクラやラウンジのように接待を伴う店が、第43類のほかにどの区分でどの役務を指定するかは、この記事では確かめられていません。区分は類似の範囲を定めるものではない、とも条文は書いています(第6条第3項)。指定の仕方は、出願の前に弁理士か、後で触れるINPIT知財総合支援窓口に相談してください。
看板や名刺を作る前に、J-PlatPatで同じ店名がないか検索する
店名の候補が決まったら、看板や名刺を作る前に、同じ名前や似た名前がすでに登録されていないかを調べます。検索には、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が案内している特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を使います。INPITの案内では、J-PlatPatは特許情報の検索・閲覧を無料で提供していて、商標については商標検索や商品・役務名検索ができます。
先に調べる理由は、登録を受けられない商標が法律で決まっているからです。店名で関係しやすいものを挙げます。
| 登録を受けられない商標 | 条文 |
|---|---|
| 自分より先に出願された他人の登録商標と同じか似ていて、同じか似た商品・役務に使うもの | 第4条第1項第11号 |
| 他人の商品・役務を表すものとして広く知られている商標と同じか似ていて、同じか似た商品・役務に使うもの | 第4条第1項第10号 |
| 他人の業務に係る商品・役務と混同を生じるおそれがあるもの | 第4条第1項第15号 |
| 国内外で広く知られた他人の商標と同じか似ていて、不正の目的で使うもの | 第4条第1項第19号 |
| 他人の肖像や氏名、著名な芸名などを含むもの(その人の承諾があるものを除く) | 第4条第1項第8号 |
このほか、ありふれた氏や名称を普通に表示するだけの商標は、原則として登録を受けられません(第3条第1項第4号)。検索で同じ名前が見つからなくても、似ているかどうかの判断は別に要ります。候補が固まった段階で、弁理士に確認してから出願する流れが安全です。
商標登録にかかる特許庁への料金
特許庁に払う料金は、出願のときと、登録が決まったときの2回です。どちらも、指定する区分の数で変わります。特許庁の「産業財産権関係料金一覧」(2026年4月1日現在)では、次のとおりです。
| 手続き | 料金 |
|---|---|
| 商標登録出願 | 3,400円+(区分数×8,600円) |
| 商標登録料(一括で納付) | 区分数×32,900円 |
| 商標登録料の分納(前期・後期) | 区分数×17,200円をそれぞれ |
| 更新登録の申請 | 区分数×43,600円 |
1区分だけで出願するなら、出願のときに12,000円、登録のときに32,900円です。登録料は、登録すべき旨の査定の謄本が届いた日から30日以内に納めます(商標法第41条第1項)。分納にすると、前期分を同じ30日以内に、後期分を存続期間の満了前5年までに納めます(第41条の2第1項)。
弁理士に依頼すれば、この料金とは別に弁理士への報酬がかかります。報酬の額は依頼先ごとに違うので、見積もりを取って確かめてください。
他人に商標登録されたとき、前から使っている店名はどうなるか
すでに何年も使っている店名が、あとから他人に商標登録されてしまうこともあります。このときに問題になるのが、先使用権です。
他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(中略)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。(後略)
商標法 第32条第1項
条件は、他人の出願より前から使っていたこと、不正競争の目的がないこと、出願の時点でその名前が自分の店を表すものとして広く知られていたことです。先に使っていたというだけでは足りません。先使用権がある場合も、商標権者から、混同を防ぐ表示を付けるよう求められることがあります(第32条第2項)。
登録がなくても、名前が広く知られていれば、不正競争防止法で守られる場合があります。同法は、広く認識されている他人の商品等表示と同じか似た表示を使って混同を生じさせる行為と、他人の著名な表示を自分の表示として使う行為を、不正競争としています(第2条第1項第1号・第2号)。自分の店名がどこまで知られているかを示すのは簡単ではありません。
のれん分けや独立した元店長など、店名で揉めやすい場面への備え
水商売の店で名前が問題になりやすい場面を、条文に当てはめておきます。どの場面でも、名前が似ているかどうか、権利があるかどうかは個別の判断です。
系列店やのれん分けで同じ名前を使うなら、誰の名義で登録するかを先に決めます。商標権者は、他人に専用使用権を設定したり、通常使用権を許諾したりできます(第30条・第31条)。のれん分けした店に店名を使わせる範囲は、この使用権の範囲として取り決められます。会社の商号そのものを他人に使わせて営業させると、取引の相手に対して、その他人と連帯して債務を弁済する責任を負うことがあります(会社法第9条、商法第14条)。
辞めた店長が近くで似た名前の店を開いた場合、店名を登録していれば、侵害の停止を求める手がかりになります(第36条・第37条第1号)。登録がない場合は、先に見た不正競争防止法や、商号についての会社法・商法の規定にあたるかを検討することになります。
ネットで他地域の同名店を見つけたら、まずJ-PlatPatで、相手と自分のどちらかが登録しているかを確かめます。条文の「使用」には、商品や役務の広告に標章を付けて、電磁的方法で提供する行為も入っています(第2条第3項第8号)。SNSのアカウント名やGoogleマップの店名がこれにあたるかは個別の判断ですが、ネット上の宣伝も商標と無関係ではありません。Googleマップの整え方は水商売のMEO入門に、SNSに載せる写真の扱いはキャストの写真の掲載にまとめました。
店名を変えたら、警察と保健所へ届け出る
名前を変える判断をしたら、商標とは別に、営業の許可や届出の変更手続きが要ります。
風俗営業の許可を受けている店は、営業所の名称を変えたら公安委員会に届出書を出します(風営法第9条第3項第1号)。期限は変更の日から10日以内です(施行規則第20条第2項)。届け出た事項が許可証の記載事項にあたるときは、許可証の書換えも受けます(法第9条第4項)。手続きの全体は風俗営業の許可を取ったあとに続く手続きにまとめています。
深夜酒類提供飲食店営業の届出をしている店も、営業所の名称を変えたら届出が要ります(風営法第33条第2項)。期限は変更から10日以内です(施行規則第104条・第42条第2項)。届出の流れは深夜酒類提供飲食店営業の届出の手順にあります。
保健所の飲食店営業許可では、施設の名称、屋号または商号が申請事項に入っています(食品衛生法施行規則第67条第2号)。変わったら速やかに届け出るよう定められていて(第71条)、東京都では変更のあった日から10日以内です(東京都食品衛生法施行細則第21条)。詳しくは水商売の店に必要な飲食店営業許可を見てください。
今日できる確認
- 今の店名を、J-PlatPatの商標検索で調べたか。自分の店か、他人の名義で登録されていないか
- 店名を商標登録しているなら、指定した区分と役務、存続期間の満了日を控えているか
- 系列店やのれん分けで同じ名前を使う店があるなら、誰が権利者で、どの範囲で使わせるかを書面で決めているか
- 新しい店名の候補があるなら、看板や名刺を作る前に弁理士かINPIT知財総合支援窓口に相談したか
- 店名を変えたとき、警察(10日以内)と保健所への変更届を出したか
出典
- 商標法(e-Gov法令検索。第2条が商標と使用の定義、第3条・第4条が登録を受けられない商標、第6条が区分、第18条・第19条・第25条が商標権の発生・存続期間・効力、第30条〜第32条が使用権と先使用権、第36条・第37条が差止めと侵害とみなす行為、第40条〜第41条の2が登録料、第78条・第78条の2・第82条が罰則)
- 商標法施行令(e-Gov法令検索。第2条と別表が商品・役務の区分、第4条・第5条が登録料の額)
- 会社法(e-Gov法令検索。第6条が商号、第8条が他の会社と誤認させる名称の禁止、第9条が商号の使用を許諾した会社の責任、第978条が過料)
- 商法(e-Gov法令検索。第11条が商号の選定と登記、第12条・第13条が他の商人と誤認させる名称の禁止と過料、第14条が商号の使用を許諾した商人の責任)
- 不正競争防止法(e-Gov法令検索。第2条第1項第1号・第2号が周知表示・著名表示に関する不正競争、第3条が差止め)
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索。第9条が変更の届出、第33条が深夜酒類提供飲食店営業の届出)
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則(e-Gov法令検索。第20条・第42条・第104条が変更届出の期限)
- 食品衛生法施行規則(e-Gov法令検索。第67条が許可の申請事項、第71条が変更の届出)
- 東京都 食品衛生法施行細則(東京都例規集。第21条が変更届の期限)
- 特許庁「産業財産権関係料金一覧」(商標登録出願の手数料、登録料、分納、更新登録料)
- 特許庁「類似商品・役務審査基準〔国際分類第13-2026版対応〕」第43類(PDF。第43類の注釈、飲食物の提供の類似群42B01)
- INPIT「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」(J-PlatPatの概要、無料の検索・閲覧、商標検索の機能)
- INPIT知財総合支援窓口(都道府県ごとの窓口、相談は無料、弁理士・弁護士など専門家との連携)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店名が登録できるか、他の店の名前と似ているか、どの区分と役務を指定するかは、弁理士かINPIT知財総合支援窓口へ、他の店との名前のトラブルは弁護士へ確認してください。






