
この記事の要点
- 客からのセクハラも、店が措置を講じる対象に入る。男女雇用機会均等法第11条の措置義務について、厚生労働省の指針は、性的な言動をする者に顧客も含まれると書いている
- 2026年10月1日から、客などの言動で雇っている人の就業環境が害されないよう、相談の体制や抑止の措置を講じることが事業主の義務になる(改正後の労働施策総合推進法第33条)
- 指針の措置を店に置き換えると、方針を伝える、相談を受ける人を決める、事実を確かめて記録する、一人で対応させない、出禁など悪質な客への対処を先に決める、の5つになる
営業中、キャストが卓から戻ってきて「さっき触られた」と言う。閉店後、店の外で同じ客に待たれていたと聞く。断っているのに、連絡が毎日来る。水商売の店では、こうした話が営業の中で出てきます。
このとき「お客さんだから」「うまくかわすのも接客のうち」で終わらせると、店が負っている措置の義務と噛み合いません。雇っている人が客から受けるセクハラには、いまも法律上の措置義務があります。2026年10月1日からは、客の迷惑行為全般への措置も義務になります。この記事は、キャストやスタッフを雇用契約で働かせている店が対象です。業務委託のキャストについては、最後の方で扱います。
客からキャストへのセクハラも、店が対応しなければならない
男女雇用機会均等法第11条第1項は、職場での性的な言動によって、雇っている労働者の就業環境が害されないよう、事業主に「雇用管理上必要な措置」を義務づけています。条文に、店の規模による区別はありません。
誰の言動が対象になるかは、厚生労働省の指針が書いています。同じ店の上司や同僚だけではありません。
当該言動を行う者には、労働者を雇用する事業主(その者が法人である場合にあってはその役員。以下この(4)において同じ。)、上司、同僚に限らず、取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等もなり得る。
厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)
客がキャストの体に触れる、性的な関係を求める。これは「客のすること」ではなく、店が相談を受けて対応すべき事案です。指針は「性的な言動」の例として、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ることを挙げています。
店の中で起きるハラスメントは、客からのものだけではありません。整理すると次の3つです。
| 種類 | 誰の言動か | 根拠 | 事業主の措置 |
|---|---|---|---|
| セクシュアルハラスメント | 店の人、客、取引先など | 男女雇用機会均等法第11条 | 現在も義務 |
| パワーハラスメント | 店の中の優越的な関係にある人 | 労働施策総合推進法第30条の2(2026年10月1日から第31条) | 現在も義務。中小企業も2022年4月1日から |
| カスタマーハラスメント | 客、取引先など | 改正後の労働施策総合推進法第33条 | 2026年10月1日から義務 |
内勤や店長からの「当たりの強さ」にあたるパワーハラスメントは、内勤に何が起きているかで扱いました。この記事では、客からの言動を中心に見ます。
2026年10月1日から、客の迷惑行為への対策が店の義務になる
令和7年6月11日に公布された改正法(令和7年法律第63号)で、労働施策総合推進法に客などの言動に関する条文が加わりました。2026年10月1日から、客の迷惑行為から雇っている人を守る措置は、店の義務になります。
事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(次条第五項において「顧客等」という。)の言動であつて、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(以下この項及び次条第一項において「顧客等言動」という。)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
労働施策総合推進法 第33条第1項(令和7年法律第63号による改正後。2026年10月1日施行)
9月30日までは、客からの著しい迷惑行為への対応は、パワーハラスメントの指針で「望ましい取組」とされている段階です。10月1日からは、令和8年厚生労働省告示第51号の指針に沿った措置が必要になります。相談したことを理由に解雇などの不利益な取扱いをすることも、同じ条の第2項で禁止されます。
措置を講じていない事業主には、厚生労働大臣が助言・指導・勧告をすることができ、勧告に従わなければその旨を公表できます(男女雇用機会均等法第29条・第30条、改正後の労働施策総合推進法第42条)。報告を求められて報告しない、または嘘の報告をすると、20万円以下の過料です(男女雇用機会均等法第33条、改正後の労働施策総合推進法第51条)。
同じ改正で、面接に来た応募者など求職者への性的な言動を防ぐ措置も、10月1日から義務になります(改正後の男女雇用機会均等法第13条)。面接の進め方は面接で聞いてはいけないことにまとめています。
客の言動のどこからがカスタマーハラスメントにあたるのか
客からの苦情や要望が、すべてカスタマーハラスメントになるわけではありません。指針は、次の3つを全部満たすものと定義しています。客などの言動であること、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えていること、それによって働く人の就業環境が害されること。
範囲を超える言動の例として、指針は2つの方向を挙げています。1つは要求の中身で、性的な要求や、働く人のプライバシーに関わる要求がここに入ります。もう1つは手段や態様で、暴行、脅迫や暴言、威圧的な言動、同じ質問やメールをしつこく繰り返すこと、長時間の居座り、盗撮や無断での撮影などです。
指針は、判断にあたって業種・業態や業務の内容も考慮するとしています。接客で会話やお酒を出すのが仕事の店でも、断っている飲酒を繰り返し求める、連絡先や住まいをしつこく聞き出す、といった言動が許される範囲にあるとは限りません。どこで線を引くかは、店として先に決めて、キャストとスタッフに伝えておく必要があります。
法律が店に求める措置を、現場の具体的なルールに落とし込む
セクハラ、パワハラ、カスハラの指針は、事業主が必ず講じる措置として、ほぼ同じ柱を並べています。方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、そしてプライバシーの保護と不利益取扱いの禁止です。カスハラにはこれに、悪質な言動を抑止するための措置が加わります。
| 指針の措置 | 店で決めておくこと |
|---|---|
| 方針を明確にして周知する | 客からの迷惑行為には店が対応し、働く人を守ると書いて、全員に伝える |
| 対処の内容を決めて周知する | その場で誰に報告するか、誰が代わりに卓に行くか |
| 相談窓口を決めて周知する | 相談を受ける人を名前で決める |
| 事実を迅速かつ正確に確かめる | 日時・卓・客・内容・対応を記録する |
| 被害を受けた人への配慮 | 同じ客の卓に付けない、帰り道の安全を確保する |
| 悪質な言動への対処を先に決める | 警告、出禁、警察への通報の基準 |
| プライバシー保護と不利益取扱いの禁止 | 相談の中身を広めない。相談した人のシフトや待遇を下げない |
不利益取扱いをしないことは、就業規則などに書いて周知する方法が指針の例に挙がっています。就業規則の作り方は就業規則と36協定は何人から必要かで確認できます。
困ったときにスタッフが動ける手順を、あらかじめ決めておく
カスハラの指針は、その場での対処の例を具体的に並べています。
・ 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと。 ・ 可能な限り労働者を一人で対応させないこと。また、必要に応じて当該労働者に代わって管理監督者等が対応すること。 (中略) ・ 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること。 (後略)
厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
店に置き換えると、キャストが卓で困ったときに誰を呼ぶか、呼ぶときの合図は何か、呼ばれた人が代わりに卓へ入るか客と話すか、を決めることになります。「一人で対応させない」は、卓だけの話ではありません。見送りで店の外に出るとき、閉店後に店を出るときも、客と一人で向き合う場面です。
指針は、客とのやり取りを録音・録画することも対処の例に挙げています。その場合は個人情報保護法などを守り、客の個人情報を適切に扱うことが条件です。
悪質な客を出禁にする基準は、トラブルが起きる前に決めておく
改正後の法律は、悪質な言動を抑止する措置を義務の中に入れています。指針は、特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、周知し、その対処ができる体制をつくることを求めています。
対処の例として指針が挙げるのは、警察への通報、警告文の発出、法令の範囲内で商品やサービスを提供しないこと、店舗への出入りの禁止、民事保全法に基づく仮処分の申立てです。出禁は、指針に例として書かれた対処のひとつです。
基準がないまま出禁にすると、担当ごとに判断が揺れます。「触ったら1回目は警告、2回目は出禁」「店の外で待っていたら、その日から出禁」のように、行為と対処を並べて紙にしておくと、その場で迷いません。指針は、対策を講じる際には消費者の権利や障害者差別解消法の定めに留意することも求めています。個別の客への対応が法的に問題ないかは、弁護士に確認してください。出禁にした客を入口で止める手順は、未成年の客を入れないための年齢確認の入口の運用と同じ場所で決めておくと回しやすくなります。
相談を受ける担当者の決め方と、記録の残し方
指針は、相談窓口をあらかじめ定めて周知することを求め、その例として、相談に対応する担当者を決めることを挙げています。小さな店なら、店長か、店長以外にもう一人を名前で決めて、キャストとスタッフ全員に伝えるところからです。カスハラの指針は、上司にあたる管理監督者を担当者にすることも考えられるとしています。妊娠や出産をめぐるハラスメントの相談窓口と防止措置は、妊娠したら店が守ることにまとめています。
相談は、ハラスメントにあたるか微妙な段階でも受けます。指針は、実際に起きた場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか微妙な場合も広く相談に対応するよう求めています。
記録は、日時、卓、客の名前か特徴、何をされたか、誰がどう対応したかを残します。カスハラの指針は、必要に応じて事案の内容や対応の経緯を記録し、個人情報の扱いに注意して関係者に共有し、再発防止に使うことも考えられるとしています。相談した人の情報はその人のプライバシーです。共有する範囲は、対応に必要な人に絞ります。
店の外での待ち伏せやしつこい連絡は、警察に相談する
店の外での待ち伏せや、断ったあとの連続した連絡は、店の中の対処だけでは止まらないことがあります。ストーカー規制法は、恋愛感情などを満たす目的で、勤務先の付近で見張ること、待ち伏せすること、拒まれたのに連続して電話やメッセージを送ることなどを「つきまとい等」と定めています(同法第2条第1項)。
こうした行為がさらに繰り返されるおそれがあるときは、被害を受けた本人の申出などにより、警察が警告をすることができます(同法第4条)。本人の申出があれば、警察が被害を防ぐための援助をすることもあります(同法第7条)。キャストが相談に行くときに、店の記録がそろっていれば、いつから何が起きているかを示しやすくなります。暴行や脅迫にあたりうる言動は、その場で警察へ通報します。
業務委託のキャストへの対応と、東京都のカスハラ防止条例
法律の措置義務がかかるのは、店が雇っている労働者です。業務委託のキャストについて、カスハラの指針は、個人事業主など雇っている人以外への客の言動についても同じ方針を示し、相談があれば措置を参考に対応するよう努めることが望ましい、としています。改正法の附則も、業務委託を受けて働く特定受託事業者が業務で受ける同様の言動について、政府が施策を検討すると定めています。業務委託の契約でも、働き方の実態から労働者と判断されることがあります。
東京都では、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が2025年4月1日から施行されています。条例は、何人もあらゆる場でカスタマー・ハラスメントを行ってはならないとしたうえで、事業者に、就業者の安全の確保や行為者への中止の申入れなどの措置に努めるよう求めています(同条例第4条・第9条)。条例の「就業者」は都内で業務に従事する者で、雇用契約に限っていません。条例の本文に罰則の規定はありません。
今日できる確認
- 客からの迷惑行為には店が対応してキャストとスタッフを守る、と書いて全員に伝えたか
- 相談を受ける人を、名前で決めて伝えたか
- 卓で困ったときの合図と、代わりに入る人を決めたか
- 警告・出禁・警察への通報の基準を、行為ごとに紙にしたか
- 起きたことを、日時・卓・客・内容・対応の形で記録しているか
出典
- 男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索。第11条がセクシュアルハラスメントの措置義務、第29条・第30条が勧告と公表、第33条が過料。2026年10月1日施行の改正後の第13条が求職者等への措置)
- 労働施策総合推進法(e-Gov法令検索。第30条の2がパワーハラスメントの措置義務。令和7年法律第63号による改正後の第31条・第33条・第42条・第51条と附則第1条・第8条の2を、2026年10月1日施行の版で確認)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(カスタマーハラスメント対策の義務化が令和8年10月1日施行であること、指針の告示と各指針の本文)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(PDF。カスタマーハラスメントの定義、その場の対処の例、悪質な言動への対処、労働者以外への配慮)
- 厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(PDF。性的な言動の行為者に顧客が含まれること、講ずべき措置、個人事業主等への配慮)
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(PDF。パワーハラスメントの定義、顧客等からの著しい迷惑行為に関する望ましい取組)
- 厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」(PDF。措置の一覧と、問い合わせ先の都道府県労働局雇用環境・均等部(室))
- ストーカー行為等の規制等に関する法律(e-Gov法令検索。第2条がつきまとい等の定義、第4条が警告、第7条が援助)
- 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(東京都例規集。第2条が定義、第4条が禁止、第9条・第14条が事業者の責務と措置、附則が令和7年4月1日施行)
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」(パワハラなどあらゆる労働問題の相談を、労働者・事業主のどちらからも無料・予約不要で受けること)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店の対策が法の求める措置を満たしているかは都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)か総合労働相談コーナーへ、業務委託のキャストが労働者にあたるかは社会保険労務士へ、つきまといや暴行・脅迫は警察へ確認してください。






