
この記事の要点
- 就業規則は、常時10人以上の労働者を使う事業場で作成し、労働基準監督署に届け出る(労働基準法第89条)。人数は店舗ごとに数え、パートやアルバイトも含む。作るときは労働者の過半数代表の意見を聴き、できたら周知する
- 1日8時間・週40時間を超えて働かせるには、人数に関係なく36協定を結んで届け出る。常時10人未満の飲食店・接客業などは週44時間の特例がある(施行規則第25条の2)
- 残業の上限は原則として月45時間・年360時間。特別条項を結んでも年720時間以内で、休日労働を含めて月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内に収める(第36条)
スタッフやキャストが増えてくると、「遅刻したら罰金」「繁忙期は閉店まで残って」といったルールが口頭で積み上がっていきます。書いたものがないまま人が入れ替わると、誰にどのルールを伝えたのか、店長にも分からなくなります。
就業規則と36協定は、このルールと残業の決め方を書面にする仕組みです。何人から義務になるのか、何を書くのか、残業にはどんな上限があるのかを、労働基準法と厚生労働省の資料で確認します。キャストやスタッフを雇用契約で働かせている店が対象です。業務委託のキャストに当てはまるかは、契約の形ではなく働き方の実態で変わります。
常時10人以上の店舗は、就業規則の作成と届出が義務になる
就業規則の作成と届出の義務は、労働基準法第89条にあります。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
労働基準法 第89条
届け先は、所轄の労働基準監督署長です(施行規則第49条第1項)。途中で10人以上になった店は、そうなった時点で遅滞なく届け出ます。書いてある内容を変えたときも、同じように届出が要ります。
就業規則は、法令や労働協約に反してはいけません(同法第92条第1項)。反している就業規則は、労働基準監督署が変更を命じることができます(同条第2項)。
常時10人はどう数えるか。アルバイトも含めて店舗ごとに判断する
数え方は、富山労働局の資料「就業規則作成の9つのポイント」が具体的に説明しています。正社員だけでなく、パートタイム労働者やアルバイトなど、雇用契約を結んでいる人はすべて含めます。経営者は労働者の数に入れません。
数えるのは店ごとです。厚生労働省のモデル就業規則は、複数の店舗を持つ会社でも全体の人数を合計せず、店舗ごとに1つの事業場として数えるとしています。2店舗で合わせて10人を超えていても、それぞれの店が10人未満なら作成の義務はありません。
「常時」には、ときどき10人を下回ることがあっても、普段は10人以上いる状態が含まれます(富山労働局の同資料)。入れ替わりの多い店で、在籍者が9人と11人を行き来しているなら、自分の店がどちらにあたるかを労働基準監督署に確認してください。業務委託のキャストを数に入れるかも、その人が労働者にあたるかどうかで変わります。
就業規則に必ず書く事項と、店でルールを決めたら書く事項
第89条は、就業規則に書く事項を並べています。厚生労働省のモデル就業規則は、これを「必ず書く事項」と「店でルールを決めるなら書く事項」に分けて整理しています。
| 区分 | 書く事項 | 条文 |
|---|---|---|
| 必ず書く | 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換 | 第89条第1号 |
| 必ず書く | 賃金の決め方・計算と支払の方法、締切日と支払日、昇給 | 第89条第2号 |
| 必ず書く | 退職に関すること(解雇の事由を含む) | 第89条第3号 |
| 決めたら書く | 退職手当、賞与などの臨時の賃金 | 第89条第3号の2・第4号 |
| 決めたら書く | 食費や作業用品など、働く人に負担させるもの | 第89条第5号 |
| 決めたら書く | 表彰と制裁の種類・程度 | 第89条第9号 |
| 決めたら書く | 店の全員に適用するルール | 第89条第10号 |
水商売の店でいえば、遅刻や無断欠勤に処分を設けるなら第9号の制裁の定めにあたります。衣装代などを本人の負担にする決まりがあるなら、第5号の対象になるかを確認しておきます。「決めたら書く」の欄は、決めていない店は書かなくてかまいません。逆に、口頭で運用しているルールがあるなら、その時点で書く対象です。
従業員の意見を聴いて労働基準監督署へ届け出て、店内で周知する
就業規則を作るときと変えるときは、労働者の過半数で作る労働組合、それがなければ労働者の過半数を代表する者の意見を聴きます(同法第90条第1項)。届け出るときは、その意見を書いた書面を付けます(同条第2項)。書面には代表者の氏名を書きます(施行規則第49条第2項)。
過半数を代表する者には条件があります。管理監督者でないこと、そして代表を選ぶと明らかにしたうえで投票や挙手などで選ばれ、使用者の意向で選ばれた人でないことです(施行規則第6条の2第1項)。厚生労働省の資料は、会社が指名する形を不適切な選び方としています。オーナーが「店長でいいよね」と決める形は、この条件に合いません。店長が管理監督者にあたるかどうかの考え方は、深夜手当はいくら払うのかに書きました。
できあがった就業規則は、働く人に周知します(同法第106条第1項)。方法は、店の見やすい場所への掲示や備え付け、書面の交付、パソコンなどに保存していつでも見られる機器を置くことです(施行規則第52条の2)。モデル就業規則は、就業規則は作っただけでは効力が生じず、周知された時期以降に効力が生じると解されていると解説しています。バックヤードの棚にしまったままの就業規則は、この点で危うくなります。
10人未満の店舗でも、就業規則を作っておく意味
10人未満の店には、就業規則を作る義務はありません。それでも、書いておくことで効いてくる場面があります。
1つは、減給の制裁です。労働基準法第91条は、就業規則で減給の制裁を定める場合の上限を決めています。1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、合計は1回の給料の支払いの総額の10分の1までです。平均賃金の1日分が1万円の人なら、1回の減給は5,000円までになります。
もう1つは、処分そのものの根拠です。
懲戒処分については、最高裁判決(国鉄札幌運転区事件 最高裁第3小法廷判決昭和54年10月30日)において、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては、「規則の定めるところ」により懲戒処分をなし得ると述べられています。したがって、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできません。
厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月版)第68条の解説
就業規則は、店と働く人の約束の中身にもなります。合理的な労働条件を定めた就業規則を周知していれば、労働契約の内容はその就業規則の労働条件によります(労働契約法第7条)。就業規則の基準に届かない個別の契約は、その部分が無効になり、就業規則の基準に置き換わります(同法第12条)。書いたルールは、店にとっても守るべき線になるということです。
一方で、書けば何でも通るわけではありません。遅刻1回いくらと罰金の額を先に決めておく契約は、労働基準法第16条が禁止しています。罰金と天引きの決まりは日払い・前借り・罰金の天引きに、遅刻や欠勤を記録に残す方法は当日欠勤と遅刻を口頭で済ませると何が起きるかにまとめました。富山労働局の資料も、10人未満の事業場に就業規則の作成を勧めています。
残業をさせるなら、従業員の人数に関係なく36協定が必要になる
労働時間の上限は、休憩を除いて1日8時間、週40時間です(労働基準法第32条)。ただし、飲食店や接客業などで常時10人未満の労働者を使う事業場は、週44時間・1日8時間まで働かせることができます(施行規則第25条の2第1項、法別表第一第14号)。
これを超えて働かせるには、第36条にもとづく労使協定、いわゆる36協定を書面で結び、労働基準監督署に届け出ます。就業規則と違って、人数の区切りはありません。36協定を届け出ていない店では、1日8時間か週40時間(特例の店は週44時間)を超えて働かせること自体が、第32条の違反になります。
たとえば休憩を除いて1日7時間のシフトに週6日入ってもらえば、週42時間です。週40時間の店なら2時間が時間外労働になり、36協定が要ります。週44時間の特例にあたる店なら、この週は時間外労働になりません。自分の店が特例にあたるかは、労働基準監督署に確認してください。
36協定では、残業をさせる人の範囲、1年間に限られる対象期間、残業をさせる場合、1日・1か月・1年それぞれの残業の時間数などを決めます(第36条第2項)。協定の有効期間や1年の起算日も決めます(施行規則第17条第1項)。届出は様式第9号で行い、上限を超える特別条項を付けるなら様式第9号の2を使います(施行規則第16条第1項)。結んだ協定は、就業規則と同じく周知が必要です(同法第106条第1項)。
36協定は、従業員に時間外労働や休日労働をする義務を課すものではなく、法定労働時間を超えて労働させても労基法違反に問われないという効果を持つものに過ぎません(これを「免罰効果」といいます)。なお、残業する義務は、労働契約か就業規則にその旨が定められていることによって生じることとなります。
厚生労働省「時間外労働の上限について」(スタートアップ労働条件)
「閉店まで残って」と言えるかどうかは、36協定だけでは決まりません。労働契約か就業規則に書いておく必要があります。
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間まで
36協定で決められる残業の時間には、上限があります。
| 項目 | 上限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 原則(限度時間) | 月45時間・年360時間 | 第36条第4項 |
| 特別条項を付けた場合の時間外労働 | 年720時間以内 | 第36条第5項 |
| 特別条項で月45時間を超えられる月数 | 年6か月以内 | 第36条第5項 |
| 時間外労働と休日労働の合計(特別条項の有無を問わない) | 月100時間未満 | 第36条第6項第2号 |
| 同じ合計の2〜6か月の平均 | 1か月あたり80時間以内 | 第36条第6項第3号 |
特別条項は、通常予見できない業務量の大幅な増加などで、臨時的に限度時間を超える必要がある場合に結べるものです(第36条第5項)。結ぶ場合は、限度時間を超えてよい場合、働く人の健康と福祉を守る措置、割増賃金の率、手続も協定に入れます(施行規則第17条第1項第4号〜第7号)。
月45時間と年360時間には、休日労働が入りません。一方で月100時間未満と平均80時間以内は、休日労働を足した合計で見ます。厚生労働省の「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」は、時間外労働が44時間で月45時間に収まっていても、休日労働が56時間あれば合計が100時間になり法律違反になる例を挙げています。休日にもイベントで出てもらう店は、この合計を月ごとに数えておく必要があります。法定休日の決め方と休日に出てもらうときの決まりは、休憩・休日と休日出勤の決まりにまとめています。
同じ資料は、違反かどうかを店が決めた所定の時間ではなく、法定労働時間を超えた時間で判断するとしています。所定6時間のシフトが1時間延びても、1日8時間と週40時間を超えていなければ、上限の計算には入りません。延びた時間の割増の計算は深夜手当はいくら払うのかで扱っています。
就業規則や36協定の決まりに違反した場合の罰則
就業規則と36協定まわりの主な罰則は、次のとおりです。
| 違反 | 条文 | 罰則 |
|---|---|---|
| 10人以上なのに就業規則を作らない・届け出ない | 第89条 | 30万円以下の罰金(第120条第1号) |
| 就業規則を作るとき・変えるときに意見を聴かない | 第90条第1項 | 30万円以下の罰金(第120条第1号) |
| 減給の制裁が上限を超える | 第91条 | 30万円以下の罰金(第120条第1号) |
| 就業規則や36協定を周知しない | 第106条 | 30万円以下の罰金(第120条第1号) |
| 36協定なしに法定労働時間を超えて働かせる | 第32条 | 6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(第119条第1号) |
| 時間外労働と休日労働の合計が月100時間以上、または平均80時間を超える | 第36条第6項 | 6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(第119条第1号) |
36協定の届出も周知も、紙1枚の手続に見えます。ただ、これがないまま残業が続いている店では、残業のたびに第32条の問題が起きています。自分の店の協定の中身や、就業規則の書き方で迷ったら、労働基準監督署か社会保険労務士に確認してください。
今日できる確認
- 店ごとに、パートやアルバイトを含めて雇っている人が常時何人いるか数えたか
- 10人以上の店で、就業規則を届け出て、店の中で誰でも見られるようにしているか
- 減給や罰金のルールが口頭だけになっていないか。減給は第91条の上限の範囲か
- 1日8時間・週40時間(特例の店は週44時間)を超える日があるなら、36協定を届け出ているか。有効期間は切れていないか
- 休日労働を含めた残業の合計を、月ごとに1人ずつ数えているか
出典
- 労働基準法(e-Gov法令検索。第16条が賠償予定の禁止、第32条が労働時間、第36条が36協定と時間外労働の上限、第89条〜第93条が就業規則、第106条が周知、第119条・第120条が罰則、別表第一が事業の区分)
- 労働基準法施行規則(e-Gov法令検索。第6条の2が過半数代表者、第16条が36協定の届出様式、第17条が協定で定める事項、第25条の2が週44時間の特例、第49条が就業規則の届出、第52条の2が周知の方法)
- 労働契約法(e-Gov法令検索。第7条が就業規則と労働契約の内容、第12条が就業規則を下回る契約の無効)
- 厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月版)(PDF。必ず書く事項と決めたら書く事項、事業場単位での作成、意見書と周知、懲戒の根拠、特例措置対象事業場)
- 厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」(PDF。月45時間・年360時間、特別条項の上限、休日労働を含む合計の例、法定外労働時間での判断、過半数代表者の選び方)
- 厚生労働省「時間外労働の上限について」(スタートアップ労働条件)(36協定の免罰効果、週44時間の特例の業種)
- 富山労働局「就業規則作成の9つのポイント」(PDF。労働者の数え方、「常時10人」の範囲、事業場ごとの判断)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店が特例措置の対象か、業務委託の人が労働者にあたるか、就業規則や36協定の具体的な書き方は、労働基準監督署か社会保険労務士へ確認してください。






