
この記事の要点
- 給与を払っていた人が年の途中で辞めたら、源泉徴収票を退職の日以後1か月以内に本人へ渡す(所得税法第226条第1項)。国税庁は、支払った金額にかかわらず全員に交付するとしている
- 雇用保険に入っていた人は、被保険者でなくなった日の翌日から10日以内に資格喪失届をハローワークへ出す。本人が離職票を希望すれば離職証明書を添える。離職の日に59歳以上の人は、希望にかかわらず添える(雇用保険法施行規則第7条)
- 健康保険・厚生年金の資格喪失届は5日以内。資格確認書を交付されていた人からは回収して返す。住民税を給料から引いていた人は、辞めた月の翌月10日までに市区町村へ異動届を出す(地方税法施行規則第9条の24)
キャストやスタッフが辞めると、店の手続きはそこから始まります。雇用保険、健康保険と厚生年金、住民税、源泉徴収票。期限はそれぞれ違い、短いものは5日です。
後回しにした分は、辞めた人の側で困りごとになります。ハローワークで失業給付の手続きをするには、離職票が要ります。この記事では、雇用契約で働いていた人が辞めたときに店が出す届出と、本人に渡す書類を、ひとつずつ確認します。税額の計算や、源泉徴収が必要かどうかの判断には触れません。
辞めた人が出たときに、店が出す書類・渡す書類の一覧
先に全体を並べます。どれも雇用契約で働き、給与を受けていた人(労働者)についての決まりです。雇用保険や社会保険は、その人が加入していた場合だけ手続きが要ります。
| 書類 | 出す先・渡す相手 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険の資格喪失届 | 日本年金機構(事務センターか年金事務所)。健康保険組合の加入者は組合にも | 事実があった日から5日以内 | 健康保険法施行規則第29条、厚生年金保険法施行規則第22条 |
| 資格確認書(交付されていた人) | 本人から回収して保険者へ返す | 本人は5日以内に店へ。店は遅滞なく | 健康保険法施行規則第51条 |
| 雇用保険の資格喪失届(離職証明書を添える場合あり) | 事業所の所在地を管轄するハローワーク | 被保険者でなくなった日の翌日から10日以内 | 雇用保険法施行規則第7条 |
| 退職証明書 | 本人(請求があったとき) | 遅滞なく | 労働基準法第22条 |
| 最後の給料・預かっている本人のお金 | 本人など権利のある人(請求があったとき) | 7日以内 | 労働基準法第23条 |
| 源泉徴収票 | 本人 | 退職の日以後1か月以内 | 所得税法第226条第1項 |
| 特別徴収に係る給与所得者異動届出書 | 住民税を納めていた市区町村 | 辞めた月の翌月10日まで | 地方税法施行規則第9条の24 |
| 給与支払報告書 | 辞めた時点の本人の住所の市区町村 | 翌年1月31日まで | 地方税法第317条の6第3項 |
加入の条件と、雇ったときの届出は労働保険と社会保険の手続きにまとめました。辞めるときの手続きは、その裏返しです。加入の届を出していた人については、喪失の届も出します。
源泉徴収票は、退職の日から1か月以内に辞めた人全員へ渡す
給与を払っていた人が年の途中で辞めたら、源泉徴収票を作って本人に渡します。期限は所得税法第226条第1項に書かれています。
居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(中略)の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した給与等について、その給与等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。(後略)
所得税法 第226条第1項
源泉徴収票は、辞めた人全員に、金額にかかわらず渡すものです。 国税庁は、税務署への提出範囲に関わらず、すべての受給者に交付しなければならないとしています。短い期間だけ働いた人も、給与の額が少なかった人も同じです。
本人の承諾を得れば、紙の代わりに電子データで渡すこともできます。ただし本人から請求があれば、紙で交付します(同条第4項)。交付の期限までに渡さないと、1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金の対象です(同法第242条第6号)。
税務署への提出は、渡す分とは別の話です。提出が必要な人の範囲は国税庁のタックスアンサーに示されています。国税庁は、2027年1月1日以後に提出する源泉徴収票について、市区町村に給与支払報告書を出せば税務署に提出したものとみなす特例も案内しています。自分の店が税務署へ何を出すかは、税理士か税務署に確認してください。
雇用保険の資格喪失届は、10日以内にハローワークへ出す
雇用保険に入っていた人が辞めたら、資格喪失届をハローワークに出します。期限は、被保険者でなくなった事実があった日の翌日から数えて10日以内です(雇用保険法施行規則第7条第1項)。
厚生労働省の資料は、これを「労働者が離職した翌々日から 10 日以内」と書いています。3月31日に辞めた人なら、4月2日から数えて10日以内です。届書には、労働者名簿や賃金台帳など、辞めた事実と日付を示せる書類を添えます。
資格喪失届を出すときに、外国籍の人(特別永住者などを除く)の在留カードの番号や在留資格などを書けば、外国人雇用状況の届出を兼ねることができます。雇ったときの確認は外国籍のキャストやスタッフを雇う前ににまとめました。
届出をしなかったり、偽りの届出をしたりすると、6月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金の対象です(雇用保険法第83条第1号)。
離職票は誰が作るのか
店が作るのは「離職証明書」です。辞めた日より前の賃金の支払い状況や、辞めた理由を書く書類で、資格喪失届に添えてハローワークに出します。これをもとに、ハローワークが「離職票」を交付します(同規則第17条第1項)。交付は、店を通じて行うこともできます(同条第2項)。
本人が離職票を要らないと言う場合は、離職証明書を添えなくてかまいません。ただし、59歳以上の人は別です。
事業主は、第一項の規定により当該資格喪失届を提出する際に当該被保険者が雇用保険被保険者離職票(様式第六号。以下「離職票」という。)の交付を希望しないときは、同項後段の規定にかかわらず、離職証明書を添えないことができる。ただし、離職の日において五十九歳以上である被保険者については、この限りでない。
雇用保険法施行規則 第7条第3項
| 辞めた人 | 資格喪失届に離職証明書を添えるか |
|---|---|
| 離職票を希望する | 添える |
| 離職票を希望しない(59歳未満) | 添えなくてよい |
| 離職の日に59歳以上 | 希望にかかわらず添える |
希望しないと言っていた人が、あとから離職票が必要になることもあります。その人から離職証明書を求められたら、店は交付しなければなりません(同規則第16条)。辞める時点で、離職票が要るかを本人に確かめて記録しておくと、あとで行き違いになりません。
ハローワークは、辞める人に向けて、離職証明書は離職前に本人が氏名を書くことになっているので、離職理由などの内容も確認するよう案内しています。辞める日が決まったら、最後の出勤日までに本人と中身を確かめておく段取りにしてください。
健康保険と厚生年金の資格喪失届は、5日以内に出す
健康保険と厚生年金に入っていた人が辞めたら、資格喪失届を出します。期限は、事実があった日から5日以内です(健康保険法施行規則第29条第1項、厚生年金保険法施行規則第22条第1項)。協会けんぽに加入している店は、2つの保険を1枚の届書で日本年金機構に出します。
資格を失う日は、退職日の翌日です(健康保険法第36条、厚生年金保険法第14条)。日本年金機構は、3月31日付けで辞めた場合の資格喪失日を4月1日と例示しています。届書に書く日付を、最後の出勤日や退職日と取り違えないようにします。届出をしなかったり、偽りの届出をしたりすると、6月以下の拘禁刑か50万円以下の罰金の対象です(健康保険法第208条第1号、厚生年金保険法第102条第1号)。
保険証の扱いも変わりました。厚生労働省によると、従来の健康保険証は2024年12月2日以降は新たに発行されず、有効期限は2025年12月1日で終わっています。いまはマイナ保険証を基本に、マイナ保険証を持たない人などに「資格確認書」が交付されています。
資格確認書を交付されていた人が辞めるときは、本人から店に出してもらいます。
被保険者(任意継続被保険者を除く。以下この項において同じ。)は、次に掲げる場合においては、五日以内に、資格確認書を事業主に提出しなければならない。 一 被保険者の資格を喪失したとき。 (後略)
健康保険法施行規則 第51条第4項
店は回収した資格確認書を、やむを得ない場合を除いて資格喪失届に添えて返します(同規則第51条第1項・第3項)。日本年金機構の案内では、協会けんぽの加入者について添付するのは、資格確認書などが交付されている場合だけです。紛失して回収できないときは「資格確認書回収不能届」を添えます。健康保険組合に加入している店は、組合の案内に従ってください。手元に残った従来の保険証をどうするかも、加入している協会けんぽか健康保険組合に確認してください。
住民税を特別徴収していた人は、辞めた翌月の10日までに異動届を出す
住民税を給料から差し引いて納めていた(特別徴収をしていた)人が辞めたら、市区町村に届け出ます。書類は「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」で、期限は辞めた月の翌月10日までです(地方税法第321条の5第3項、同法施行規則第9条の24)。7月に辞めた人なら、8月10日までです。
届出のあと、残りの住民税は本人が自分で納める形(普通徴収)に切り替わります(地方税法第321条の7第1項)。港区は、会社が異動届を出すと、区から本人の自宅に納税通知書を送ると案内しています。
1月1日から4月30日までに辞めた人は扱いが違います。5月31日までに払う給与や退職手当等が残りの住民税の全額を超えるなら、店はその支払いのときに残りをまとめて差し引き、翌月10日までに納めます。6月1日から12月31日までに辞めた人は、本人から申出があった場合に、同じようにまとめて差し引きます(同法第321条の5第2項)。どの給与から引くかは、市区町村の案内で確かめてください。
翌年の1月31日までには、辞めた人の分の給与支払報告書も出します。出す先は、辞めた時点の本人の住所がある市区町村です。その年に店が払った給与の総額が30万円以下の人は除かれます(同法第317条の6第3項)。
退職証明書と最後の給料は、本人から求められたら応じる
辞めた人から、働いた期間、業務の種類、地位、賃金、退職の理由について証明書を求められたら、遅滞なく渡します(労働基準法第22条第1項)。本人が求めていないことは書いてはいけません(同条第3項)。
最後の給料は、本人などから請求があれば7日以内に払います。預かっている保証金など、本人のお金も返します(同法第23条第1項)。どちらも違反すると30万円以下の罰金の対象です(同法第120条第1号)。解雇の予告や、飛んだ人の給料の扱いは解雇と雇い止めの労務ルールに、最後の給料からの天引きの決まりは日払い・前借り・罰金の天引きにまとめました。
業務委託で働くキャストが辞めた場合はどうなるか
ここまでの書類は、雇用契約で働き、給与を受けていた人を前提にしています。業務委託の契約で報酬を払っていたキャストには、そのまま当てはまりません。
労働基準法の労働者は、事業に使用され、賃金を支払われる人です(第9条)。契約書が業務委託でも、働き方の実態からこれにあたると判断されることがあります。その場合は、この記事の手続きが必要になり得ます。報酬として払っていた場合にどの書類が要るか、その支払いが給与か報酬かの判断は、税理士か税務署に確認してください。契約と実態が合っているかは、社会保険労務士に相談できます。
今日できる確認
- 在籍しているキャストとスタッフについて、雇用保険・健康保険・厚生年金に入っているかを一覧にしたか
- 辞める人に、離職票が要るかを確かめて記録する段取りになっているか
- 資格確認書を持っている人を把握し、辞めるときに回収する手順を決めたか
- 住民税を給料から引いている人と、その市区町村を一覧にしたか
- 辞めた人の源泉徴収票を、退職の日から1か月以内に渡す担当を決めたか
出典
- 所得税法(e-Gov法令検索。第226条が源泉徴収票の作成・提出・交付と電子交付、第242条が交付しなかった場合の罰則)
- 国税庁 タックスアンサーNo.7411「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等(すべての受給者への交付、税務署への提出範囲、2027年1月1日以後のみなし提出、給与支払報告書の提出範囲)
- 雇用保険法・雇用保険法施行規則(e-Gov法令検索。法第7条が届出、第83条が罰則。規則第7条が資格喪失届と離職証明書、第16条が離職証明書の交付、第17条が離職票の交付)
- 厚生労働省「雇用保険被保険者離職証明書についての注意」(PDF。資格喪失届の提出期限、離職票を希望しない場合、あとから請求された場合の交付)
- ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格喪失届」(離職票の希望欄と59歳以上の扱い、外国人雇用状況の届出を兼ねる記載)
- ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な手続き」(離職証明書への本人の記載、離職後に離職票が届くこと)
- 健康保険法・健康保険法施行規則(e-Gov法令検索。法第36条が資格喪失の時期、第48条が届出、第208条が罰則。規則第29条が資格喪失届、第51条が資格確認書の返納)
- 厚生年金保険法・厚生年金保険法施行規則(e-Gov法令検索。法第14条が資格喪失の時期、第27条が届出、第102条が罰則。規則第22条が資格喪失届)
- 日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」(提出時期・提出先、資格確認書の添付と回収不能届、資格喪失日の考え方)
- 厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について」(従来の健康保険証の発行終了と有効期限、資格確認書)
- 地方税法・地方税法施行規則(e-Gov法令検索。法第317条の6が給与支払報告書、第321条の5が退職時の特別徴収と異動届、第321条の7が普通徴収への切替え。規則第9条の24が異動届の期限)
- 港区「会社を辞めた場合、給与天引きされていた住民税はどうなりますか」(異動届による普通徴収への切替えと納税通知書、一括徴収)
- 労働基準法(e-Gov法令検索。第9条が労働者の定義、第22条が退職時等の証明、第23条が金品の返還、第120条が罰則)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店で誰がどの保険に入っているか、源泉徴収が必要か、給与か報酬かの区分は、ハローワーク、年金事務所、市区町村、税務署、社会保険労務士、税理士へ確認してください。






