
この記事の要点
- 雇っている人に給与を払ったら、支払額と源泉徴収した所得税額などを書いた支払明細書を、支払の際に渡す(所得税法第231条、施行規則第100条)。渡さないと1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金の対象
- 健康保険・厚生年金の保険料や雇用保険料を給与から引いたときは、控除額の計算書を作り、本人に知らせる(健康保険法第167条、厚生年金保険法第84条、労働保険徴収法第32条)
- LINEやメールなどで明細を送るには、あらかじめ方法を示して本人の承諾を得る。承諾があっても、本人が紙を求めたら紙で渡す(所得税法第231条第2項、施行令第356条)
営業が終わると、その日の分を封筒に入れて渡す。月末には残りを口座に振り込む。夜の店ではよくある払い方ですが、封筒にも振込にも、何の明細も付けていない店があります。
雇っているキャストやスタッフに給与を払ったら、明細を渡す決まりがあります。根拠は労働基準法ではなく、所得税法です。この記事では、給与明細を渡す決まり、書いておく項目、日払いやLINEで送るときの扱いを、条文と国税庁・厚生労働省の資料で確認します。雇用契約で働く人(労働者)に給与を払っている店が対象です。
給与明細を渡す義務は、所得税法第231条にある
給与明細の交付は、所得税法第231条が定めています。
居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。
所得税法 第231条第1項
条文に、店の規模や人数の条件はありません。短時間のアルバイトでも、給与を払えば明細が要ります。
渡さなかった場合や、うその記載をして渡した場合は、1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金の対象です(同法第242条第7号)。従業者が店の業務として違反したときは、店を営む法人や個人事業主にも罰金が科されます(同法第243条)。
明細をもらえなかった人は、税務署に届け出ることができます。国税庁は「給与支払明細書不交付の届出手続」を案内していて、届出書には明細がなかった月ごとの収入金額と源泉徴収税額を書く欄があります。
給与明細に書かなければならない項目
何を書くかは、所得税法施行規則第100条と、社会保険・雇用保険の法律がそれぞれ定めています。
| 項目 | 根拠 |
|---|---|
| 支払った給与の金額 | 所得税法施行規則第100条第1項第1号 |
| 源泉徴収した所得税の額 | 同項第2号 |
| 健康保険料・厚生年金保険料を引いた額 | 健康保険法第167条第3項、厚生年金保険法第84条第3項 |
| 雇用保険料(労働保険料の本人負担分)を引いた額 | 労働保険徴収法第32条第1項 |
施行規則第100条は、このほかに還付した金額などを書く場面も定めています(同項第3号・第4号)。
健康保険と厚生年金の保険料は、給与から引くことができます。そのかわり、引いたら知らせる義務がつきます。
事業主は、前二項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。
健康保険法 第167条第3項
厚生年金保険法第84条第3項も同じ書き方です。給与から引けるのは、前月の標準報酬月額に係る保険料です(両法の第1項)。今月の給与で引いているのは、前月分の保険料ということです。
雇用保険料の本人負担分も同じ形です。事業主は給与から引くことができ、引いたときは労働保険料控除に関する計算書を作り、控除額を本人に知らせます(労働保険徴収法第32条第1項)。施行規則は、賃金を支払う都度、その賃金に応じた額を引けるとしています(同法施行規則第60条第1項)。誰が保険の対象になるかは、スタッフを1人でも雇ったら必要な保険の手続きにまとめました。
口座振込のときの計算書と、賃金台帳の決まり
労働基準法には、給与明細を渡せという条文はありません。ただし、給与を口座に振り込む店には、厚生労働省の通達があります。
使用者は、口座振込み等の対象となっている個々の労働者に対し、所定の賃金支払日に、次に掲げる金額等を記載した賃金の支払に関する計算書を交付すること。 (1) 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額 (2) 源泉徴収税額、労働者が負担すべき社会保険料額等賃金から控除した金額がある場合には、事項ごとにその金額 (3) 口座振込み等を行った金額
厚生労働省労働基準局長通達「賃金の口座振込み等について」(令和4年11月28日 基発1128第4号)
これは、厚生労働省が口座振込をする使用者への指導の内容として、都道府県労働局に示したものです。振込にするなら、賃金の種類ごとの額、引いた額、振り込んだ額を分けて書いた計算書を、給料日に渡すことになります。
もう一つ、労働基準法には賃金台帳の決まりがあります。店は給与を払うたびに賃金台帳へ記入し、労働日数、労働時間数、深夜の労働時間数、賃金の種類ごとの額、控除した額を1人ずつ書きます(同法第108条、施行規則第54条第1項)。明細は、この賃金台帳と同じ区分で作ると、両方を突き合わせやすくなります。台帳の保存期間は日払い・前借り・罰金の天引きに書きました。
時給、歩合、ドリンクバックは、明細でどう分けるか
夜の店の給与は、項目が多くなりがちです。時給に、指名やドリンクの歩合、深夜の割増が乗り、ドレス代や寮費を引く。合計額だけの明細では、本人も店も、何にいくら払ったのかを後から確かめられません。
賃金台帳と口座振込の計算書は、どちらも「賃金の種類ごと」に額を書く形です。これに合わせると、明細は次のように分けられます。
| 店の給与の項目 | 明細での見せ方 | 関連する決まり |
|---|---|---|
| 時給×働いた時間 | 働いた時間数と金額を書く | 賃金台帳に労働時間数(施行規則第54条第1項第5号) |
| 深夜の割増 | 時給と分けて1行にする | 賃金台帳に深夜の労働時間数(同項第6号) |
| 指名料・ドリンクバックなどの歩合 | 歩合の種類ごとに金額を書く | 賃金台帳に賃金の種類ごとの額(同項第7号) |
| 所得税・社会保険料・雇用保険料 | 引いた額を事項ごとに書く | 所得税法施行規則第100条、健康保険法第167条ほか |
| ドレス代・寮費など店が引くもの | 引いた額を事項ごとに書く | 賃金台帳に控除した額(施行規則第54条第1項第8号) |
深夜の割増を時給と分けておくと、午後10時以降の分を払ったことを明細で示せます。計算の仕方は深夜手当はいくら払うのかに、歩合を含めた給与が最低賃金を下回っていないかの確かめ方は最低賃金と歩合の確かめ方にまとめました。
ドレス代や寮費を給与から引くには、明細に書く前に、労使の書面の協定が要ります(労働基準法第24条第1項ただし書)。明細に書いてあれば引いてよい、ということにはなりません。協定の中身は日払い・前借り・罰金の天引きで確認してください。
どの項目を何と呼び、どう計算するかは、雇うときに渡す労働条件通知書と明細でそろえておきます。通知書の書き方は労働条件の明示にあります。
日払いで渡すときも、内訳を書いた明細を添える
日払いは、給与の払い方として認められています。では、日払いのたびに明細が要るのか。所得税法施行規則第100条第1項は、支払明細書を「その支払の際」に、支払を受ける者に交付するとしています。
日払いも給与の支払です。条文に沿えば、その日の支払額と、源泉徴収した所得税があればその額を書いた明細を、封筒に添えることになります。封筒の表に内訳を書き込む形でも、紙を1枚入れる形でもかまいませんが、金額だけの封筒では明細になりません。
雇用保険料は、賃金を支払う都度引けるので(労働保険徴収法施行規則第60条第1項)、日払いから引いたならその額も書きます。
日払いで一部を渡し、残りを月末に精算する店は、支払が月に何度もあることになります。日払いの封筒でも月末の精算でも、その回に払った額と引いた額を、本人が明細で確かめられるようにしておきます。 どの単位で明細を作るか、源泉徴収をどう計算するかは、この記事では扱いません。払い方に合わせた作り方は、税務署か税理士に確認してください。
LINEやメールで明細を送るなら、先に本人の承諾を取る
紙の明細の代わりに、データで送ることもできます。条件は本人の承諾です(所得税法第231条第2項)。
承諾の取り方は、施行令第356条第1項が定めています。あらかじめ、使う電磁的方法の種類と内容を本人に示し、書面か電磁的方法で承諾を得ます。国税庁のQ&Aは、承諾を得るときに示す事項の例として、送る書類の名称、送り方、ファイルの形式、交付の予定日、交付を始める日を挙げています。
承諾には、ほかに3つの決まりがあります。
- 本人から紙で求められたら、紙で渡す(同法第231条第2項ただし書)。正当な理由なく断ると罰則の対象(同法第242条第8号)
- 本人から、データでは受け取らないと申し出があったら、データで送るのをやめる(施行令第356条第2項)
- 「期限までに回答がなければ承諾したものとみなす」と先に知らせ、期限までに回答がなければ、承諾があったものとみなされる(施行規則第100条第4項で準用する第95条の2第2項)
送り方の基準もあります。国税庁のQ&Aは、本人が画面に表示でき、紙に印刷できることを求めています。電子メールで本人の端末に直接送る場合などを除き、データを記録する旨か記録した旨を本人に知らせることも必要です。方法の例として挙げているのは、電子メール、インターネットなどで閲覧できるようにする方法、CDなどの媒体です。
労働条件通知書については、厚生労働省のリーフレットがLINEなどのSNSのメッセージ機能を例に挙げています。給与明細の国税庁のQ&Aには、LINEは例として出てきません。店のLINEで明細のPDFを送る運用にするなら、その方法が基準を満たすかを、税務署か税理士に確認してから始めてください。承諾の返事は、トーク画面やメールをそのまま残しておきます。
勤怠の記録から明細を作り、データで配る給与計算のソフトもあります。使う場合も、承諾を取る手順は店の側で踏みます。こうしたソフトの導入に補助金を考えるなら、風営法の営業が対象外になっている制度があることを、風営法の許可を取っている店が使えない補助金で確認してください。
業務委託で働くキャストへの支払いは、扱いが異なる
この記事の決まりは、雇用契約で働く人に給与を払う場合の話です。業務委託の契約で働くキャストに払うお金は、給与としてではなく報酬として扱われることがあり、所得税法第231条の明細や社会保険料の通知は、そのままでは当てはまりません。
一方で、契約書が業務委託でも、働き方の実態から労働者にあたると判断されることがあります。支払いが給与と報酬のどちらにあたるか、源泉徴収が要るかは、この記事では扱いません。契約の形と実態が合っているかは社会保険労務士に、税の扱いは税理士か税務署に確認してください。辞めた人に渡す源泉徴収票などの書類は辞めたときの書類と期限にまとめています。
今日できる確認
- 日払いの封筒にも月末の振込にも、支払額と引いた額が分かる明細を付けているか
- 社会保険料や雇用保険料を引いている人の明細に、その控除額を書いているか
- 時給、深夜の割増、歩合、店が引く費用を、明細で1行ずつ分けているか
- ドレス代や寮費を引いているなら、労使の書面の協定があるか
- LINEやメールで明細を送っている人から、送り方を示したうえで承諾を取り、記録を残しているか
出典
- 所得税法(e-Gov法令検索。第231条が給与等の支払明細書の交付と電磁的方法による提供、第242条第7号・第8号が罰則、第243条が両罰規定)
- 所得税法施行令(e-Gov法令検索。第356条が電磁的方法による提供の承諾と撤回)
- 所得税法施行規則(e-Gov法令検索。第100条が支払明細書の記載事項と交付の時期、第95条の2が承諾の手順とみなし承諾)
- 健康保険法(e-Gov法令検索。第167条が保険料の源泉控除と控除額の通知)
- 厚生年金保険法(e-Gov法令検索。第84条が保険料の源泉控除と控除額の通知)
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(e-Gov法令検索。第32条が賃金からの控除と計算書)と同法施行規則(第60条が賃金を支払う都度の控除)
- 労働基準法(e-Gov法令検索。第24条が賃金の支払、第108条が賃金台帳)と同法施行規則(第54条が賃金台帳の記載事項)
- 厚生労働省「賃金の口座振込み等について」(令和4年11月28日 基発1128第4号)(口座振込の同意・協定と、賃金の支払に関する計算書の交付)
- 国税庁「給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A」(給与等の支払明細書の電子交付の承諾、みなし承諾、送り方の基準、書面交付の請求)
- 国税庁「F5-5 給与支払明細書不交付の届出手続」(明細を交付されなかった人の税務署への届出)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店の払い方に合わせた明細の作り方、LINEなどで送る方法が基準を満たすか、源泉徴収の扱いは税務署か税理士へ、社会保険料・雇用保険料の控除や業務委託の人が労働者にあたるかは労働基準監督署か社会保険労務士へ確認してください。






