
この記事の要点
- 風俗営業の許可申請には、営業所を使う権原を示す書類(使用承諾書・賃貸借契約書・建物の登記事項証明書など)を付ける。居抜きでも前の店の許可は引き継げない
- 普通の建物賃貸借は、期間満了の1年前から6月前までに通知がなければ更新されたとみなされ、貸主からの更新拒絶には正当の事由が要る。定期建物賃貸借は書面での契約と事前の書面説明が条件で、更新がない
- 退去時の原状回復は、通常の使用による損耗と経年変化を除いた損傷が対象(民法第621条)。国土交通省のガイドラインは民間賃貸住宅を想定したもので、店の契約では契約書の条項を読むことが先になる
居抜きの物件が空いた。カウンターも照明もそのまま使えそうで、不動産会社からは「ほかにも申込みが入りそうです」と言われる。物件の契約は、許可や届出の手続きより先に判断を迫られます。
ただ、店の賃貸借契約には、許可の申請に使う書類、何年いられるか、出るときにいくらかかるか、内装に払ったお金がどうなるかが全部入っています。契約してから気づいても、条項は簡単に変わりません。ここでは、判を押す前に確かめる点を、風営法、借地借家法、民法の条文に沿って並べます。個別の契約が有効かどうかの判断はしません。それは最後に挙げる確認先に相談してください。
前の店の許可は引き継げない。予定の営業ができる場所かを先に確かめる
物件を見る前に決めておくのは、その場所で予定の営業ができるかどうかです。風俗営業には、住居が多く集まる地域や、学校・病院など条例で決める施設(保全対象施設)の周辺で許可が出ない、場所の基準があります(法第4条第2項第2号、施行令第6条)。深夜に酒を出す飲食店も、都道府県が条例で地域を決めて、深夜の営業を禁止できます(風営法第33条第4項)。場所の基準の中身はラウンジ開業の許可一覧に、深夜営業の届出の流れは深夜酒類提供飲食店営業の届出の手順にまとめました。
居抜き物件では、前の店が許可を取っていたことが安心材料に見えます。けれど風営法が許可の引き継ぎを認めているのは、相続、法人の合併、法人の分割で、公安委員会の承認を受けた場合です(法第7条〜第7条の3)。物件を借り直して別の人が営業するなら、許可は自分で申請し直します。前の営業者の許可証の返納については許可を取ったあとに続く手続きに書きました。
前の店が同じ業態だったことは、その場所で許可が出る保証にもなりません。候補の住所と図面を持って、契約の前に管轄の警察署に相談してください。
風営法の許可申請で出す、物件を使う権利を示す書類
風俗営業の許可申請書には、内閣府令で決められた書類を付けます。その中に、物件を使う権利についての書類があります。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「法」という。)第五条第一項の内閣府令で定める書類は、次のとおりとする。 一 営業の方法を記載した書類 二 営業所の使用について権原を有することを疎明する書類 (後略)
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく許可申請書の添付書類等に関する内閣府令 第1条
警視庁は、この書類の例として「使用承諾書・賃貸契約書・建物に係る登記事項証明書等」を挙げています。借りた物件なら、賃貸借契約書や貸主の使用承諾書がこれにあたります。契約書の名義と、許可を申請する人(個人か法人か)がずれていると、どの書類で足りるかが問題になります。個人で借りて法人で申請する予定なら、契約の前に管轄の警察署に確認してください。
一方、深夜酒類提供飲食店営業の届出では、警視庁が挙げる必要書類は届出書、営業の方法を記載した書類、営業所の平面図、住民票などで、使用の権原を示す書類は入っていません(内閣府令第24条第1号も同じです)。ただ、届出で出す書類が少ないことは、契約の使用目的を確かめなくてよい理由にはなりません。次の見出しで扱います。
契約書の使用目的に、実際にやる営業が入っているか確かめる
契約書で最初に読むのは、使用目的の定めです。民法は、借りた人は契約や物の性質で決まった用法に従って使わなければならないと定めています(民法第616条が第594条第1項を賃貸借に準用)。契約書の使用目的に、実際にやる営業が書かれているかを、申込みの段階で確かめます。
「飲食店」とだけ書かれた契約で、接待をする店や深夜に酒を出す店を始めてよいかは、契約の文言と貸主の認識しだいで、ここで判断できることではありません。ビルに管理規約があるなら、その内容も確認します。申込みのときに、接待の有無、営業時間、カラオケの有無まで貸主に伝え、契約書の使用目的に反映してもらうのが安全です。
名義の問題もあります。民法第612条は、貸主の承諾なしに賃借権を譲り渡したり、転貸(又貸し)したりすることを禁じ、違反して第三者に使わせたときは貸主が契約を解除できるとしています。前の借主から店を「譲ってもらう」形の居抜きや、知人が借りている物件で営業する形は、この条文に関わります。貸主の承諾が書面で取れているかを確かめます。
普通借家と定期借家で大きく違う、契約の更新
店として建物を借りる契約にも、借地借家法の建物賃貸借の規定がかかります(一時使用のためと明らかな場合を除く。第40条)。契約の形は大きく2つです。期間が終われば原則として更新される普通の建物賃貸借と、更新がない定期建物賃貸借です。
普通の建物賃貸借では、期間満了の1年前から6月前までの間に、更新しない旨などの通知がなければ、同じ条件で更新したものとみなされます。更新後は期間の定めがない契約になります(借地借家法第26条第1項)。貸主が更新を断る通知や解約の申入れをするには、正当の事由が必要です(第28条)。正当の事由は、貸主と借主それぞれが建物を使う必要性、これまでの経過、建物の利用状況と現況、明渡しと引換えの財産上の給付(いわゆる立退料)の申出を考慮して判断されます。
定期建物賃貸借は、公正証書などの書面で契約するときに限り、更新がない旨を定められる契約です(第38条第1項)。貸主は契約の前に、更新がなく期間の満了で終わることを、書面を渡して説明しなければなりません(同条第3項)。
建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
借地借家法 第38条第5項
| 項目 | 普通の建物賃貸借 | 定期建物賃貸借 |
|---|---|---|
| 更新 | 通知がなければ同じ条件で更新(第26条第1項) | 更新なし(第38条第1項) |
| 貸主から終わらせるには | 正当の事由が必要(第28条) | 期間1年以上なら、満了の1年前から6月前までに終了の通知(第38条第6項) |
| 契約の方式 | 第38条のような書面の条件はない | 書面または電磁的記録で契約し、事前に書面を交付して説明(第38条第1項〜第4項) |
| 期間1年未満 | 期間の定めがない契約とみなす(第29条第1項) | 第29条第1項は適用しない(第38条第1項) |
| 賃料の増減額請求 | 使える(第32条) | 賃料改定の特約があれば適用しない(第38条第9項) |
定期建物賃貸借で借主から途中解約できる規定(第38条第7項)は、居住用で床面積200平方メートル未満の建物に限られます。店の定期借家で途中で出られるかは、契約書の中途解約の条項で決まります。内装にかけた費用を何年で回収するつもりか、契約期間と並べて考えておきます。
退去時の原状回復の範囲と、保証金・敷金が戻る時期
退去時にどこまで元に戻すかは、民法第621条が基本を定めています。借りたあとに生じた損傷を原状に戻す義務を負いますが、通常の使用による損耗と経年変化はそこから除かれます。借主の責任でない損傷も除かれます。
よく参照される国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、住宅向けの資料です。
このガイドラインは、賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定しています。
国土交通省「「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について」
同じページは、すでに結んだ契約について、契約内容に沿った取扱いが原則だとも書いています。店の契約では、ガイドラインを当てにする前に、契約書の原状回復の条項を読みます。「スケルトン(内装を撤去した状態)に戻す」のような定めがあるか、居抜きで引き継いだ内装まで撤去の対象になるかは、退去の費用を大きく左右します。入居時に写真を撮り、引き継いだ設備の一覧を貸主と共有しておくと、あとで話がかみ合います。
保証金や敷金は、名目を問わず、賃料などの債務を担保するために借主が預けるお金であれば、民法第622条の2の敷金にあたります。貸主は、契約が終わって物件の返還を受けたときに、未払いの賃料などを差し引いた残りを返します。返還は物件を明け渡したあとなので、次の店の開業資金に保証金の返還をあてる計画は、時期がずれることを前提に組みます。償却(返さない部分)の定めがあるかも契約書で確認します。
退去のときに、内装の買い取りを貸主に請求できるか
店の内装には大きなお金がかかります。借地借家法第33条は、貸主の同意を得て建物に付け加えた畳、建具その他の造作について、契約が期間満了か解約の申入れで終わるときに、貸主に時価で買い取るよう請求できると定めています。貸主から買い受けた造作も同じです。
ただし、借主に不利な特約を無効とする第37条が挙げているのは第31条、第34条、第35条で、第33条は入っていません。第30条も、同じ章の第1節(更新などの規定)についての定めです。造作買取請求をしないと定める特約は、これらの条文が無効とする対象に入っていません。契約書にそうした条項がないかを探します。
| 契約書で探す条項 | 関係する条文 | 読むときの目安 |
|---|---|---|
| 使用目的 | 民法第616条・第594条第1項 | 接待・深夜営業・カラオケなど、実際の営業が入っているか |
| 転貸・譲渡の禁止 | 民法第612条 | 名義人と営業する人が同じか。違うなら貸主の書面の承諾 |
| 契約の種類と期間 | 借地借家法第26条・第38条 | 普通借家か定期借家か。定期なら事前の説明書面があるか |
| 原状回復 | 民法第621条 | 戻す範囲。居抜きで引き継いだ内装も含むか |
| 保証金・敷金 | 民法第622条の2 | 返還の時期、償却の有無 |
| 造作買取請求の排除 | 借地借家法第33条・第37条 | 内装を買い取ってもらえない前提で、投資額を考える |
| 賃料の改定 | 借地借家法第32条・第38条第9項 | 増額しない特約、定期借家の改定特約 |
居抜きで前の店から内装を買う場合、その内装が「貸主の同意を得て付加した造作」にあたるのか、退去時に撤去する対象なのかは、貸主との取り決めで変わります。前の借主にお金を払う前に、貸主がその引き継ぎを承知しているかを書面で確かめてください。
賃料の増額や減額を求められたときの決まり
借地借家法第32条第1項は、税金などの負担の増減、土地や建物の価格の変動その他の経済事情の変動、近くの同じような建物の賃料との比較によって賃料が不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、当事者が将来に向かって増額や減額を請求できると定めています。貸主からも借主からも請求できます。ただし、一定の期間は増額しないという特約があれば、その定めに従います。
増額について話がまとまらないとき、請求された借主は、増額を正当とする裁判が確定するまで、自分が相当と認める額を払えば足ります(同条第2項)。確定した額に足りなかった分は、年1割の利息を付けて払います。減額のときは逆に、貸主は相当と認める額を請求でき、受け取りすぎた分は年1割の利息を付けて返します(同条第3項)。
定期建物賃貸借で賃料の改定について特約があるときは、第32条は適用されません(第38条第9項)。賃料を一定の時期に一定の割合で改定するといった条項が入っていないかを、契約期間と合わせて読みます。
内装工事の前に、消防署と保健所への相談と手続きの時期をそろえる
物件が決まると内装工事に入りますが、工事と使い始めには消防署への届出があります。東京消防庁は、工事をしなくても建物やその一部を新たに使うなら使用開始の届出が必要だと案内していて、居抜きで使い方を変える場合も例に挙げています。期限と書類は防火管理者と消防の届出で確認してください。
酒や料理を出すなら、保健所の飲食店営業許可も要ります。施設の基準は内装に直結するので、図面の段階で保健所に相談します。手順は水商売の店に必要な飲食店営業許可に書きました。業態ごとの手続き全体は、スナック開業の許可一覧、ガールズバー開業の許可一覧、コンカフェ開業の許可一覧にまとめています。看板の店名を決めるときは、店名と商標登録の基本も合わせて見てください。
工事の着手日、各窓口への申請日、契約上の賃料の発生日を一枚の予定表に並べると、許可が出る前から家賃を払い続ける期間が見えてきます。
今日できる確認
- 候補の住所と図面を持って、管轄の警察署に予定の営業ができる場所か相談したか
- 契約書の使用目的に、接待・深夜営業など実際の営業が書かれているか
- 契約の名義人と許可を申請する人が同じか。違うなら、どの書類で権原を示すかを警察署に確認したか
- 普通借家か定期借家か。定期借家なら、更新がないことの説明書面を受け取ったか
- 原状回復の範囲、保証金の償却と返還時期、造作買取請求の排除の条項を読んだか
出典
- 借地借家法(e-Gov法令検索。第26条〜第29条が更新・正当の事由・期間、第32条が借賃増減請求権、第33条が造作買取請求権、第37条が強行規定、第38条が定期建物賃貸借)
- 民法(e-Gov法令検索。第594条・第616条が用法の遵守、第612条が賃借権の譲渡と転貸の制限、第621条が原状回復義務、第622条の2が敷金)
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく許可申請書の添付書類等に関する内閣府令(e-Gov法令検索。第1条が風俗営業の許可申請の添付書類、第24条が深夜酒類提供飲食店営業の届出の添付書類)
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索。第4条第2項が営業所の場所の基準、第7条〜第7条の3が相続・合併・分割による承継、第33条が深夜酒類提供飲食店営業の届出と禁止地域)
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令(e-Gov法令検索。第6条が住居集合地域と保全対象施設の周辺の地域の基準)
- 警視庁「風俗営業、特定遊興飲食店営業許可申請(欠格事由・必要書類)」(使用の権原を疎明する書類の例)
- 警視庁「性風俗関連特殊営業、深夜における酒類提供飲食店営業の届出」(深夜酒類提供飲食店営業の届出に必要な書類)
- 国土交通省「「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について」(ガイドラインが民間賃貸住宅を想定していること、既存契約の扱い)
- 東京消防庁「防火対象物の使用開始の届出をしよう」(工事をしない場合や居抜きで使い方を変える場合の届出の例)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。個別の契約書の条項が有効か、どう読むかは弁護士へ、物件の取引条件や重要事項は宅地建物取引業者へ、その場所で予定の営業ができるかや申請書類は管轄の警察署または行政書士へ確認してください。






