
この記事の要点
- 店員がいる時間に営業している店は、遺失物法の「施設」にあたる。店で見つかった忘れ物は店(施設占有者)が扱い、雇っているスタッフやキャストが見つけた物は店が拾ったものとして扱われる
- 店は、持ち主に返すか、警察署長に提出しなければならない。交付を受けた日か自ら拾った日から1週間以内に提出しないと、報労金や所有権を取得する権利を失う(遺失物法第13条・第34条第4号)
- 客に返すときは、品物の特徴と忘れた日時・場所を聞いて照合し、受領書をもらう。スマホや手帳の中身を見るのは、持ち主に返すために必要な範囲に限る
営業中にカウンターの端で見つかったカード入れ。閉店後の清掃で、ソファの下から出てきたスマホ。キャストが「お客さまのです」と持ってきた傘。どれも店に届いた時点で、店が扱い方を決めなければならない物です。
扱い方は遺失物法で決まっています。いつまでに警察に届けるか、客から問い合わせが来たら誰に渡してよいか。この記事では、遺失物法と同施行令・施行規則、警察庁の解釈運用基準、警視庁と兵庫県警察の案内で、店の手順を確認します。
店内でスタッフが見つけた忘れ物は、店が拾った物として扱う
遺失物法は、管理に当たる人が常駐する建物などを「施設」、その占有者を「施設占有者」と定めています(第2条第5項・第6項)。警察庁の解釈運用基準は、施設にあたる建物の例として飲食店や娯楽施設を挙げています。常駐については、利用者が使える時間帯に管理に当たる人がいれば足り、24時間いる必要はないとしています。
営業時間中に店長やスタッフがいる店は、この「施設」にあたります。施設占有者は、店の経営者です。解釈運用基準は、商店なら商店主が施設占有者にあたるとしています。
大事なのは、店で働く人が見つけた場合の扱いです。
施設占有者の代理人(雇われている店長等)や使用人、従業員等が拾得した物件は、当該施設占有者が拾得したものとして取扱います。
兵庫県警察「遺失物取扱いのしおり(施設占有者のみなさまへ)」
警察庁の解釈運用基準も、従業者が施設の中で見つけた物は施設占有者が拾得者になるとしています。閉店後の清掃でスタッフが見つけた財布も、店が拾った物として、店に提出の期限がかかります。 業務委託で働くキャストがこの「従業者」にあたるかは、契約の実態で変わりうるので、届け出る警察署に確認してください。
客から忘れ物を渡されたら、求めに応じて書面を渡す
店の中で物を拾った人は、速やかに施設占有者に渡さなければなりません(第4条第2項)。たとえば、隣の席の客が「これ落ちてました」と持ってきた場合です。拾った人が24時間以内に店に渡さないと、その人は報労金などの権利を失います(第34条第3号)。
受け取った店は、拾った人から求められたら、品物の種類と特徴、受け取った日時、店の名前と所在地、経営者の氏名を書いた書面を渡します(第14条)。この書面を渡さなかったり、うその内容を書いたりすると、30万円以下の罰金です(第42条第1号)。解釈運用基準は、書面は任意の形でよく、店の名刺の裏に書いて渡す方法でも差し支えないとしています。
拾った人が権利を放棄しないときは、名前と連絡先を控えます。兵庫県警察のしおりは、拾った人が報労金などの権利をどうするか、持ち主に名前を伝えることに同意するかを確認するよう求めています。
持ち主に返せない忘れ物は、1週間以内に警察署へ提出する
店が受け取った忘れ物について、遺失物法は次のように定めています。
第四条第二項の規定による交付を受けた施設占有者は、速やかに、当該交付を受けた物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
遺失物法 第13条第1項
店が自ら見つけた物も、同様に返すか提出します(第4条第1項)。交付を受けた日か自ら拾った日から1週間以内に提出しないと、店は費用や報労金を請求する権利と、所有権を取得する権利を失います(第34条第4号)。
| 誰が | 何をする | 期限 | 過ぎたら |
|---|---|---|---|
| 店内で拾った客など | 店に渡す(第4条第2項) | 拾った時から24時間以内 | 拾った人が権利を失う(第34条第3号) |
| 店(経営者) | 持ち主に返すか、警察署長に提出(第13条第1項・第4条第1項) | 交付を受けた日か自ら拾った日から1週間以内 | 店が権利を失う(第34条第4号) |
| 店(経営者) | 返すか提出するまで保管する(第15条) | 返すか提出するまで | 善良な管理者の注意で扱う |
提出するときは、品物の種類と特徴、拾った日時と場所、店と拾った人の氏名と連絡先、権利の有無などを書いた提出書を添えます(施行規則第26条)。様式は決まっておらず、解釈運用基準は任意の書式でよいとしています。警視庁は、施設占有者向けにオンラインでの届出も案内しています。提出すると、警察署長から拾得物件預り書を受け取ります。後で持ち主から問い合わせがあったときに受理番号を伝えたり、店が品物を引き取ったりするときに必要になるので、なくさないように保管します。
不特定かつ多数の人が利用する施設では、忘れ物を預かっている間、品物の種類と特徴、拾った日時と場所を、利用者の見やすい場所に掲示します(第16条第1項)。掲示の代わりに、書面を備え付けて自由に見られるようにしてもかまいません(同条第2項)。解釈運用基準は飲食店をこの施設の例に挙げる一方で、会員制の施設は特定の人が利用する施設としています。会員制で営業している店は、どちらにあたるかを警察署に確認してください。
鉄道やバスの会社、公安委員会の指定を受けた百貨店などは「特例施設占有者」として、2週間以内に届け出れば自分で保管できます(第17条、施行令第5条)。公安委員会の指定を受けていない店は、この特例の対象ではありません。
「忘れ物をした」と電話が来たときの本人確認の進め方
店から持ち主に返すときの本人確認の方法は、法律で細かく決まっていません。参考になるのは、警察署長が返すときの方法です。施行規則第20条第1項は、氏名などを証する書面の提示を受ける方法と、品物の種類と特徴、忘れた日時と場所を聞き取って記録と照合する方法を挙げています。
店でも同じ順番で確かめます。電話では「どんな財布か」「何日の何時ごろ、どの席にいたか」を先に聞き、店の記録と合うかを見ます。店から「黒い長財布ですね」と特徴を言ってしまうと、確認になりません。解釈運用基準は、広く市販されている品物は、身分証の提示や特徴の照合だけでは本人確認が不十分な場合があるとして、品物に記録された氏名や電話番号との照合も合わせて行うよう求めています。財布なら中のカードの名義、スマホなら電話番号など、本人しか答えられないことも聞きます。
引き取りに来たら、身分証を見て、受領書をもらって渡します。兵庫県警察のしおりは、返したことを証明する受領書を作っておくことが望ましいとしています。同じしおりは、なりすましを防ぐため、掲示にはブランド名や金額を書かないよう注意しています。本人以外が代わりに取りに来る場合の扱いは、渡す前に警察署に相談しておくと迷いません。
スマホや財布の中身を見てよいのは、返すために必要な範囲だけ
忘れたスマホのロックが開いていると、持ち主を探そうとして中を見たくなります。警察庁の解釈運用基準は、見てよい範囲を次のように書いています。
なお、物件を遺失者に返還するために必要な範囲内で、例えば、携帯電話に記録された電話番号、手帳に記載された連絡先など、物件に記録された事項その他物件の内容を確認することができる。
警察庁「遺失物法等の解釈運用基準について」第3の1(1)イ
持ち主に連絡するための電話番号を見るところまでが、この範囲です。写真やメッセージ、客の連絡先の一覧を見て回ることは、返すためには要りません。財布の中の身分証で名前を確かめるのも、返すための確認にとどめます。
スマホや身分証、クレジットカードは、持ち主が見つからなくても、拾った人や店が所有権を取得できない物です(第35条)。警視庁は、携帯電話は個人の住所や連絡先が記録された電磁的記録にあたり、3か月たっても拾った人のものにはならないと案内しています。
| 品物 | 所有権を取得できない理由(第35条) | 例 |
|---|---|---|
| 身分証・カード類 | 第2号(個人の身分や権利を証する物) | 運転免許証、クレジットカード、預金通帳 |
| 手帳・パソコンなど | 第3号(個人の秘密が記録された物) | 手帳、USBメモリ |
| スマホ・住所録 | 第4号(住所や連絡先が記録された物) | 携帯電話、名簿 |
例は兵庫県警察のしおりと警視庁の案内によります。客の個人情報を店がどう扱うかは、防犯カメラの録画と客の連絡先の管理でもまとめています。
預かった上着や、酔って眠っている客の荷物は「忘れ物」にあたらない
遺失物は、持ち主の意思によらず、盗まれたのでもなく、持ち主の手を離れた物です。警察庁の解釈運用基準はこう定義しています。兵庫県警察のしおりは、預けたものは遺失物に含まれないとしています。
来店時にキャストやスタッフが上着やかばんを預かった場合は、店が客から預かっている物です。民法は、物を預けた人は、返す時期を決めていてもいつでも返還を求められると定めています(第662条第1項)。客が帰るときに渡し忘れないよう、預かった物は置き場所を決めておきます。
酔って席で眠っている客の荷物も、客の手元にある持ち物です。店が中を開けて確かめる理由はありません。帰り際に本人に持たせ、翌日に席で見つかった物から、忘れ物として扱います。会計を払わない客の持ち物を返さずに支払いを迫るやり方の問題は、会計トラブルで店がしてはいけないことにまとめています。
持ち主が現れなかったときの所有権と、報労金を請求できる期限
持ち主は、品物を返してもらったら、拾った人に品物の価格の5%以上20%以下の報労金を払います(第28条第1項)。店の中で客が拾って店に渡した場合は、拾った人と店がそれぞれ半分ずつです(同条第2項)。警察庁は、施設で拾われた場合は2.5%から10%になると案内しています。報労金と、提出や保管にかかった費用は、品物が返されてから1か月を過ぎると請求できません(第29条)。請求するかどうかは、店の判断です。
警察署が公告してから3か月以内に持ち主が分からなければ、権利を持つ拾った人や店が所有権を取得します(民法第240条)。取得した日から2か月以内に警察署から引き取らないと、所有権を失います(遺失物法第36条)。誰も引き取らなければ、品物は都道府県のものになります(第37条第1項)。
忘れ物を自分の物にすることに関わる罪として、刑法第254条があります。遺失物など、占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の拘禁刑か10万円以下の罰金もしくは科料です。遺失物法も、横領で処罰された人は報労金などの権利を失うとしています(第34条第1号)。
今日できる確認
- 忘れ物を見つけた人、日時、席や場所、品物の特徴を書き残すノートか記録の形が決まっているか
- 返すか警察署に届けるかを、見つけた日から1週間以内に判断する担当者が決まっているか
- 電話での問い合わせに、店から特徴を言わず、客に特徴と日時を言ってもらう手順になっているか
- 返すときに身分証を確認し、受領書をもらっているか
- スマホや財布の中は、持ち主に連絡するための確認だけにとどめると、スタッフとキャストに伝えているか
出典
- 遺失物法(e-Gov法令検索。第2条が施設・施設占有者の定義、第4条が拾得者の義務、第9条が警察署長による売却、第13条が施設占有者の義務、第14条が書面の交付、第15条が保管の注意、第16条が掲示、第17条が特例施設占有者、第28条・第29条が報労金、第34条が権利の喪失、第35条が所有権を取得できない物件、第36条・第37条が所有権の喪失と帰属、第42条が罰則)
- 遺失物法施行令(e-Gov法令検索。第3条が売却できる日用品、第5条が特例施設占有者の要件)
- 遺失物法施行規則(e-Gov法令検索。第20条が警察署長による遺失者の確認方法、第26条が施設占有者の提出書、第27条が掲示の期間)
- 刑法(e-Gov法令検索。第254条が遺失物等横領)
- 民法(e-Gov法令検索。第240条が遺失物の拾得、第657条・第662条が寄託)
- 警察庁「遺失物法等の解釈運用基準について」(PDF。施設・常駐・施設占有者の解釈、従業者が拾得した場合、返還のために確認できる物件の内容、本人確認、提出書と書面の書式、掲示の対象になる施設)
- 警察庁遺失届情報サイト「施設に届け出ましょう!」(拾得者の権利、施設で拾われた場合の報労金の割合、引取期間)
- 警視庁「施設占有者の方」(拾得物の届出のオンライン手続、特例施設占有者)
- 警視庁「落とし物について」(施設内で拾ったときの24時間、携帯電話の所有権を取得できない理由)
- 兵庫県警察「遺失物取扱いのしおり(施設占有者のみなさまへ)」(PDF。従業員が拾得した物件の扱い、預けた物と遺失物の違い、返還時の受領書、掲示の注意、所有権を取得できない物件の例)
※2026年9月24日に上記資料を確認しました。自分の店が「施設」や「不特定かつ多数の者が利用する施設」にあたるか、提出書の書き方、本人以外への返還は、店の所在地を管轄する警察署の会計課(遺失物の窓口)へ確認してください。






